北海道大学は、竹の断面でみられる繊維の疎密が、竹全体を曲がりにくく補強するために理想的な分布であることがわかったと発表した。

竹(モウソウチク)の断面写真[左]と、その一部を拡大した電子顕微鏡写真[右]。ハート型の黒い孔を取り囲む肉厚の膜が維管束鞘であり、断面の外側部分で密に詰まっている様子がわかる。(写真出所:北海道大学プレスリリース)

同研究は、北海道大学大学院工学研究院の佐藤太裕准教授、熊本県立大学環境共生学部の井上昭夫教授、山梨大学生命環境学部の島弘幸准教授の研究チームによるもので、米国東部時間の5月3日に「PLOS ONE」電子版に掲載された。

竹は、軽さと丈夫さを併せもった「天然の機能材料」と言われている。竹が軽い理由は、空洞部分が多いためだが、軽いだけだと横風による力や自重に耐えきれず崩壊するリスクが生じてくる。この弱点を補うべく、竹の木質部「維管束鞘」には、鉄鋼と同程度の剛性を持つ細くて丈夫な繊維がたくさん埋め込まれており、木質部に埋め込まれた多くの繊維は、竹全体を補強する強化繊維の役目を果たしているという。しかし、木質部において繊維は均一に分布しておらず、断面の内側から外側に向かって繊維の密度が徐々に高くなっていることが観察できる。維管束鞘は強化繊維の役目を果たすため、稈(竹の幹の部分)の強さは、内側から外側にかけて徐々に大きくなると予見されるという。同研究チームは、このことと竹全体の曲げ強さとの間に、どのような合理性があるのかを調べたということだ。

同研究チームは、稈の断面における繊維分布の疎密さと、稈全体の曲げ強さとの関係を、構造力学理論を用いて解析。さらに、実際の竹を伐採して得られた測定データを使って、竹が示す繊維分布と理論的に得られた理想的な繊維分布とを比較した。その結果、竹は自分自身の曲げ剛性(曲がりにくさ)が最も大きくなるよう、繊維分布の疎密さを調節していることが明らかとなった。生育する竹にとって重要なのは、横風などによる曲げ応力に対する強さとなる。一般に、円筒を曲げたときに円筒断面の各部へ働く力の大きさは、内側から外側に向かって徐々に増加する。そのため、材料の力学的な強度も外側に向かって大きくなるのが望ましいといえる。このような、材料の機能や組成がある一方向に向かって徐々に変化する材料のことを一般に傾斜機能材料と呼ぶが、竹は強化繊維を傾斜分布させてできる天然の傾斜機能材料だといえるということだ。

竹断面における維管束鞘の傾斜分布曲線。左は竹林を伐採して得た実測データで、右は力学理論から演繹した、曲げ剛性を最大にするための傾斜分布。竹の根本に近い部分 (n=14,15)ではどちらも二次曲線となり、竹の先端に近い部分(n=42)では一次関数に近い曲線系をとる。nは根本から数えた節間番号を意味する。(出所:北海道大学プレスリリース)

また、断面を貫く繊維の総数が少ない場合は、繊維密度を内側から外側へ向かって一次関数に従い(直線的に)増加させることで、その断面位置における竹の曲げ剛性を最大にできることが判明。さらに、断面を貫く繊維の総数が多い場合は,繊維密度を内側から外側へ向かって二次関数に従い増やすことで、竹全体の曲げ剛性を最大にできるということもわかった。竹断面を貫く繊維の総数は、竹の根本と先端で大きく異なるのだが、根本の近くでは繊維の総数は多いため、二次関数形の傾斜分布が理想的となる一方、先端の近くでは繊 維の総数が少ないため、一次関数の傾斜分布をとることで曲げ剛性は最大となる。そこで、野生の竹から得られた測定データを調べると、非常に高い精度で理想型とほぼ同じ繊維分布を示していることが判明した。すなわち、竹の根本から先端に向かって、竹繊維の傾斜分布は二次関数形から一次関数形へ推移していたということだ。さらに、その傾斜分布の曲線グラフは、同研究チームの理論予測と定量的にほぼ一致したという。以上の結果より、竹は「最少材料・最大強度」の理念を実現した、最高性能の傾斜機能材料であること、同研究で提唱した力学理論は、中空円筒一般に対してその曲げ剛性を最大化するための最適傾斜分布を教えてくれること、が導き出された。

この成果は、竹が進化の過程で獲得した「生存競争を勝ち抜くための最適構造デザイン」の一端を明らかにしたことになる。また、繊維分布の制御により構造全体の剛性を最大化できるという発見は、タワーやパイプライン構造などを合理的に設計する際のヒントとなるという。今後は、竹がもつ智恵を活かした、軽くて丈夫な新しい中空円筒構造の設計開発につながることが期待できるということだ。