東京工業大学(東工大)は3月17日、半導体などの原料であるシリコン(ケイ素)と窒素の化合物である耐熱セラミックス「窒化ケイ素(Si3N4)」に高圧と高温をかけることで、大気圧下では合成不可能な「スピネル型窒化ケイ素」のナノ多結晶体を合成することに成功。レンズや窓に使われるシリカガラスやダイヤモンド・ウインドウと同等の透明さを有しつつも、全物質中で3番目の硬さと、空気中で1400℃の高熱に耐えられることを確認したと発表した。

同成果は、東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の西山宣正 特任准教授(研究実施時はドイツ電子シンクロトロン研究員、同 若井史博 所長、ドイツ電子シンクロトロンのJozef Bednarcik氏, Eleonora Kulik氏、物質・材料研究機構の谷口尚氏、Kim Byung-Nam氏、吉田英弘氏、東京大学の石川亮氏、幾原雄一氏、バイロイト大学のHauke Marquardt氏、Alexander Kurnosov氏、愛媛大学の大藤弘明氏、入舩徹男氏、弘前大学の増野敦信氏らで構成される日独共同研究グループによるもの。詳細はNatureのオープンアクセスジャーナルである「Scientific Reports」に掲載された。

炭素は高温高圧下ではダイヤモンドになるが、こうした温度圧力条件次第で、物質の原子の並びが変化する「構造相転移」と呼ばれる現象は、今回の研究材料となったSi3N4でも生じ、13万気圧以上の高圧力と高温の条件下では、大気圧下では合成できない「スピネル型窒化ケイ素」へと相転移することが知られており、高い圧力下でスピネル型窒化ケイ素が合成できることは先行研究でも報告されていたが、純粋で緻密に焼き固まったスピネル型窒化ケイ素を合成することが実験的に困難であったため、ダイヤモンド、立方晶窒化ホウ素に次ぐ、全物質の中で3番目に硬い物質候補とされていながらも、実際にその硬さや割れにくさといった構造材料としての性能を評価するうえで不可欠な性質は良く分かっていなかったという。

シリコンナイトライド(Si3N4)セラミックスそのものは、その特性からさまざまな分野で活用されている (資料提供:東工大)

今回、研究グループは、1000Tonf(重量トン)の圧力をかけることが可能な高温高圧発生装置を用いて、15.6万気圧、1800℃の条件の下、粒経100nm程度の窒化ケイ素パウダーを焼結することで、1粒当たり150nm程度のスピネル型窒化ケイ素がランダムな方向で焼き固まったナノ多結晶体(直径2.5mm、厚み1.2mm)を合成することに成功したという。

今回の研究で開発されたスピネル型窒化ケイ素 透明セラミックスの画像。右は拡大画像。それぞれの粒子の向きが揃っておらず、ランダムな方向を向いている (資料提供:東工大)

実際に、硬さならびに割れにくさ(破壊靱性)を測定したところ、他の透明多結晶セラミックスであるMgAl2O4(スピネル)やAl23O27N5(ALON)と比べて倍程度の硬さとなる34.9GPa、同じく倍程度の割れにくさとなる3.5MPa m0.5であることを確認。この結果、同物質は、ダイヤモンド、立方晶窒化ホウ素に次ぐ3番目に硬い物質の1つであることが示されたとする。また、耐熱性についても調査したところ、ダイヤモンドの空気中700-800℃に対し、1400℃以上(1600℃でα化、β化)と、高いことを確認。透明かつ硬く、割れにくいという特長が示されたことから、極端な条件下においても窓材などとして利用できるものと思われるとしている。

左が一般的な多結晶体セラミックスとの特性比較。硬さも割れにくさも倍程度高いことが判明した。右がその硬さを全物質と比較したもの。ダイヤモンド、立方晶窒化ホウ素に次ぐ3番目グループに位置することが判明した (資料提供:東工大)

なお、西山氏によると、今回はあくまで、新しい原理を見つけることを主眼において、研究を進めてきた中で、実際にスピネル型窒化ケイ素が実現できることを示したものにすぎないとしており、今後は、今回以上の圧力をかければ大型化ができることがわかっているので、そうした大型化を図っていくとする。また、AlとOを組成に組み込むとサイアロンセラミックス(Si6-zAlzOzN8-z)になり、そうすると希土類などの元素をそこに入れることが可能となるため、蛍光体などへの応用発展がおそらくできるものと考えられるともしており、そうした透明、硬い、耐熱といった基本性能にさらなる機能を追加した多機能透明結晶体への発展も目指していきたいとしていた。