東北大学は、同大多元物質科学研究所の笠井均教授らによる共同研究グループが、高い眼内移行性を有するナノ粒子点眼薬の開発に成功したことを発表した。同研究成果は、3月14日、英科学誌「Scientific Reports」(電子版)に掲載された。
この研究は、眼疾患治療薬をナノ粒子化することにより、治療薬の眼内移行性の向上と、それに伴う薬理効果の向上を目指したもの。
一般的な点眼薬は、角膜のバリア機能により疎水的な角膜上皮を透過することが困 難で、点眼した薬の0.1%以下しか眼内に移行しないことが知られている。そこで笠井均教授らによる共同研究グループは、緑内障の治療薬である「ブリンゾラミド」(商品名:エイゾプト)に難水溶化を施した誘導体を合成し、独自のナノ粒子化技術である「再沈法」を駆使して、ブリンゾラミド誘導体のナノ粒子点眼薬を作製することに成功した。
実際にブリンゾラミド-TMLプロドラッグを合成し再沈法によりナノ粒子化を行ったところ、平均粒径200nmの球状ナノ粒子が生成されていることが判明したという。次に、TMLプロドラッグナノ粒子点眼薬をラットに投与した結果、1時間後にナノ粒子点眼薬を点眼した右眼の眼圧が、生理食塩水を点眼した左眼と比べて有意に低下するなど、高い薬理効果が確認されたという。
また、エイゾプトは白濁の点眼薬であるため、点眼後に患者の視野が霞むという使用感の悪さが課題であった。そこで、作製した TMLプロドラッグナノ粒子点眼薬とエイゾプトの光透過率を比較したところ、エイゾプトの光透過率は全波長域で0.2%以下と光をほとんど透過していないのに対し、TMLプロドラッグナノ粒子水分散液は800nm付近での透過率が約20%とエイゾプトの100倍程度の光透過率を示したという。この結果から、ナノ粒子点眼薬により点眼時の使用感の向上につながると期待されている。
なお、同研究で作製したナノ粒子点眼薬は、緑内障治療薬であるブリンゾラミドのみならず、さまざまな眼疾患の薬理活性化合物にも応用可能であるため、今後は新たな眼科製剤の作製法として発展していくことが期待される。