早稲田大学(早大)は3月7日、人工的な環境下で微小管による「細胞質流動」の再現に成功したと発表した。
同成果は、早稲田大学理工学術院 鈴木和也助手、宮﨑牧人助教、石渡信一名誉教授らの研究グループによるもので、3月6日付けの科学誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」オンライン版に掲載された。
細胞質流動とは、細胞質と呼ばれる液体が細胞内で流れる現象で、細胞全体に栄養素を行き渡らせるための物質輸送システムであると考えられている。流動を引き起こす線維状タンパク質には、アクチン線維と微小管の2種類があり、微小管が引き起こす流動は未解明な部分が多く残されている。
たとえばウニの卵やショウジョウバエの卵母細胞で生じる微小管駆動の流動では、微小管が渦状に配列したネットワーク構造が形成され、この配列に沿った回転流動が生じることが特徴となるが、そもそもどのようにしてこのような渦構造が形成されるのかは明らかになっておらず、従来の細胞質流動の研究では、細胞膜や微小管の力学的性質はほとんど考慮されていなかった。
今回、同研究グループは、細胞膜の物理的な“壁”としての役割に着目した。壁の影響を調べるためには、微小管にとって狭い空間と、壁がないとみなせるほど広い空間で形成されるネットワーク構造や流動の様子を観察する必要がある。そこで同研究グループは、アフリカツメガエルの卵から細胞質を抽出し、細胞を模したカプセルに封入することで、大きさを自在に制御できる人工細胞システムを構築した。
細胞質抽出液をカプセルに封入しないで観察した場合、微小管どうしが束になり、さらにその束どうしがランダムに架橋された、無秩序な網目状構造が形成され、細胞質全域で乱流のような複雑な流れが生じる。一方で、細胞質抽出液を直径100~700μmのカプセルに封入したところ、微小管の束が自発的に渦状に配列し、カプセル内全域の細胞質が一方向に回る大域的な流れが発生。この流れは、数十分から数時間にわたって持続する安定的な流動だという。
さらに同研究グループは、個々の微小管束の動態、カプセルの大きさと流速の関係などを調べることで、渦構造の形成と回転流動のメカニズムを解明。回転運動が細胞質の流れと微小管配向のあいだの正のフィードバック作用によるものであることを明らかにした。
同研究グループは今回の成果について、細胞質流動の研究に新たな視点を与え、その仕組みを解き明かす手がかりとなることが期待されると説明している。