慶大、ヒトES・iPS細胞から1週間で神経細胞を分化させる手法を開発

慶應義塾大学(慶大)は2月14日、ヒトES細胞・iPS細胞から、1週間で90％以上という高い効率で神経細胞を分化させる「細胞分化カクテル」の開発に成功したと発表した。

同成果は、慶應義塾大学医学部坂口光洋記念講座(システム医学教室) 洪実教授、生理学教室 柚崎通介教授らの研究グループによるもので、2月13日付けの英国科学誌「Scientific Reports」に掲載された。

現在、ES細胞・iPS細胞からヒトの体を構成するさまざまな細胞を培養皿の上で分化させ、それを再生医療での細胞移植の材料にすることや、病気や個人に合う薬のスクリーニングに活用することが試みられている。従来は、ヒトES・iPS細胞から胚様体と呼ばれる細胞塊を作り、培養条件を順次変えていくことで、徐々に細胞を分化させていく方法が主流だったが、このような方法は、手間やコストがかかるだけでなく、場合によっては1カ月以上という長期の複雑な培養が必要であるといった課題があった。

今回、同研究グループが開発したのは、神経細胞の遺伝子発現調節に関わる5つの転写因子が試験管内で合成されたmRNAの形で入っている合成mRNAカクテルで、単層培養されているヒトES細胞・ヒトiPS細胞に数回添加するだけで、神経細胞の分化を1週間で誘導できるというもの。実験では、培養1週間目に培養皿上の90％以上の細胞が神経突起の密なネットワークを形成し、電気刺激に反応できる機能的な神経細胞となっていた。また、運動神経に特異的なマーカーを発現しており、運動神経への分化が強く示唆されていたという。

同研究グループは、同カクテルについて、細胞のゲノムDNAに傷をつけないことに加え、人為的な細胞操作の跡を残さないという点で、より安全な細胞分化方法として将来の治療への展開が期待されるほか、量産可能なため、細胞移植や創薬スクリーニングに必要とされる大量の神経細胞を簡単に作ることができるものと説明している。