KDDIの欧州現地法人である、TELEHOUSE EUROPEは、KDDIがグローバルで展開するデータセンター事業「TELEHOUSE」の中で、特に事業規模が大きい英国・ロンドンに新たな建屋となる「TELEHOUSE LONDON Docklands North Two」が完成し、11月21日から事業を開始していると発表した。

ロンドンのTELEHOUSE

12月1日(現地時間)にはロンドンで記者会見が行われ、KDDIヨーロッパとTELEHOUSEヨーロッパの社長である曽雌博之氏が、同社のTELEHOUSE事業を紹介した。

プレスイベントに登壇した曽雌博之社長

ロンドン東部、金融街のシティから20kmほど東に向かったDocklandsエリアにTELEHOUSEは位置している。もともと1600年に設立された東インド会社の跡地にあり、敷地内には子午線も通っているそうだ。

ここにTELEHOUSEが開業したのは1990年。1989年の米ニューヨークに次いで2番目の開業であり、当初は「North」と呼ばれる棟が1つだけだったが、旺盛な需要を背景に「East」「West」と拡大を続け、今回の「North Two」の建設となった。TELEHOUSE LONDONの総床面積は約7万3000平方メートルで、North Twoは2万4000平方メートルの床面積を備えた。

North Twoの外観。ちなみに手前の下に見える壁は東インド会社の頃の壁らしい

旧東インド会社にちなんで、周辺の道路には香辛料の名前がついている

TELEHOUSEは、歴史的に「キャリアフリー」がビジネスの基本だ。データセンター黎明期には、通信事業者が自社回線の利用者に対して局舎の一部を貸し出すというビジネスで、回線の利用が必須だった。その縛りをなくしたのがTELEHOUSEであり、その結果、英国ではインターネットエクスチェンジの「LINX」がTELEHOUSEに入居。LINXに直結できるデータセンターということで利用者も拡大し、現時点で530社を超える通信事業者やISP、ASPらが顧客になっているという。

TELEHOUSEの外観模型。手前右の跡地にNorth Twoが建てられた

TELEHOUSE内はファイバーが張り巡らされ、LINXなどの接続したい機器にすぐに接続できる環境も整えており、どのビルに入っても直結できる点も強みだ。その結果、英国の実に70%のトラフィックがTELEHOUSEを経由しているそうだ。

TELEHOUSEは89年から事業を開始し、ロンドンには90年に進出。世界初のキャリアフリーのデータセンターとして、ニューヨークに続き2番目にスタート

欧州でTELEHOUSEはドイツ・フランクフルト、フランス・パリにもデータセンターを設置しているが、その中でも最大なのがロンドンで、それでもなお需要は多く、新たなNorth Twoの開設によって、さらに売上の拡大を図りたい考えだ。

North Twoでは、新たな間接外気空調システムも導入。機器が発する熱を集めて外気と熱交換することで冷却して循環させるシステムで、これによって消費電力を削減。さらに、本来は空調の室外機用に屋上に一定の広さが必要だったが、新たなシステムによってこれが不要になり、その分、スペースに余裕ができたため、従来に比べて1階層を追加できたそうだ。それだけ需要があり、スペースが必要だったということだ。なお、この気化冷却システムはロンドンの気候では問題がないというシミュレーション結果が出ているというが、日本だと気温によっては必要な冷却ができないこともあるという。

電気設備はすべて2系統で、自家発電機やUPS設備も冗長構成を備えているほか、敷地内には50メガワットの変電所も2012年に設置しており、十分な電力も確保。「建物を建てるだけではダメで、電力もあらかじめ確保することが重要」と曽雌社長は強調する。

説明する曽雌博之社長

「TELEHOUSEは高い接続性をビジネスモデルの核として成長してきた」と曽雌社長。クラウドサービスの普及がストレージやデータ配信のニーズを牽引しており、データセンターの需要を支えているという。現在、英国では固定ブロードバンドのトラフィックの方がモバイルトラフィックより多いが、モバイルの動画サービスの普及で逆転するのは時間の問題と曽雌社長はみる。こうした動画配信やクラウドではレイテンシが重要で、事業者は大規模サーバーを北欧などに設置しつつ、一定の割合のサーバー群は都市のデータセンターに設置する例が増えているという。

また、IoTによるトラフィックにも曽雌社長は注目する。情報を集め、ビッグデータとして解析するのに、TELEHOUSEのモデルは最適として、こうした新たな需要も見越している。

曽雌社長は、「データセンターには投機的な事業者もいる」と指摘。顧客を集めた上で「不動産として転売する」事業を行っている会社もあるが、KDDIとしてはグローバルの重要な事業と位置づけており、「どれだけ継続的にお客様のお役に立てるか、一緒に成長していけるか」という点を重視して、今後もさらなる成長を目指していきたい考えだ。