早稲田大学(早大)は12月1日、150℃程度の低温度において、メタンと水蒸気のパラジウム(Pd)触媒を用い反応系に弱電場をかけることによって水素が生成するメカニズムを立証したと発表した。
同成果は、早稲田大学理工学術院 関根泰教授らの研究グループによるもので、12月1日付けの英国科学誌「Scientific Reports」に掲載された。
従来の水素製造は、700℃以上の高温下でメタンと水蒸気を反応させること(メタン水蒸気改質)で行われていたが、高い耐熱性を有する材料や、高温の熱を使い切るための多段の熱交換器を用いる必要があり、高温に長時間さらすことで触媒が劣化してしまうなど、さまざまな問題があった。
同研究グループはこれまでに、弱い電場中で触媒反応を行うことで、メタン水蒸気改質のような高温を必要としてきた反応が、150℃~200℃といった低い温度でも充分に速い速度で進行しうることを見出してきた。この反応系は、電場中での触媒反応が非平衡になっていることが考えられるという。しかし、なぜ電場を印加すると低温で十分な速度が得られるのか、またなぜ非平衡となりうるのかは、従来の教科書的知見では説明がつかない現象であった。
今回、同研究グループは、電場中の触媒の状態を観察するために、電場を印加しながら赤外光やX線を照射できるセルを作成し、これを用いて反応ガスを流し電場を印加した状態の触媒表面を生け捕りにする「operando(生け捕り)分光」を考案。同方法や同位体を利用した速度論的解析、表面インピーダンス評価などにより解析することで、電場中では、表面に吸着した水を介してプロトン(H+)が速やかに動いていること、このプロトンの表面ホッピングが低温でも反応を促進していること、またこのプロトンとの衝突が不可逆過程を生み出していることなどを明らかにした。
現時点ではすでに、水素と窒素からアンモニアを創り出す反応にも同メカニズムが適用可能であることがわかっており、同研究グループは現在、排気ガスと燃料を低温で反応させることによる自動車の総合エネルギー効率の向上を狙った研究を進めているという。