中性子星とヒトの細胞内に、非常によく似た構造が存在することがわかってきた。カリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB)などの研究チームが報告した。研究論文は物理学誌「Physical Review C」に掲載された。
小胞体と呼ばれる細胞小器官の中には、等間隔に隙間が空いたシート状の積層構造が存在している。各シートは螺旋状につながっているので、立体駐車場のような形にみえる。この構造は、発見者であるコネチカット大学の細胞生物学者マーク・テラサキ氏にちなんで、テラサキ・ランプと呼ばれている。
ソフトコンデンスドマター物理学者のグレッグ・フーバー氏(UCSBカブリ理論物理学研究所副所長)は2014年頃、テラサキ・ランプについて調べていた。フーバー氏は当初、この立体駐車場型の構造について、細胞内部のようなソフトマターに特有のものであると考えていたという。
しかしその後、インディアナ大学の核物理学者チャールズ・ホロウィッツ氏の研究をたまたま目にし、そうではないことに気づく。ホロウィッツ氏らのチームは、中性子星の外殻深部などの条件で存在すると予想されている高密度核物質において、同様の形状が存在することをコンピュータ・シミュレーションによって発見していた。フーバー氏はホロウィッツ氏に連絡を取り、この類似性に気がついているかどうかを訊ねたが、ホロウィッツ氏のほうはまだ気づいていなかった。こうして両チームの共同研究が始まった。
ホロウィッツ氏らは、コンピュータ・シミュレーションで見つかったこの構造を「ニュークリア・パスタ」という用語で呼んでいた。用語の由来は、チューブ状の形状(スパゲッティ)と並行シート(ラザーニャ)が螺旋形状でつながっているためで、テラサキ・ランプと類似した構造となっている。
2つの構造は非常によく似ているが、背後にある物理は大きく異なる。通常、物質の特性は、その相によって説明される。物質の相は、密度(または体積)、温度、圧力といった熱力学的な変数に依存する。中性子星と細胞内部では、これらの因子はまったく違っている。
「中性子星では、強い核力と電磁力によって量子力学的な問題が起こっている。一方、細胞内部で膜を結合している本質的な力はエントロピーであり、系全体におけるエネルギー最小化と関係がある。一見すると2つは、これ以上違うものはないというくらい違う」とフーバー氏は説明する。
もうひとつの相違点はスケールである。核物理の場合、立体駐車場構造の基礎となっているのは核子(陽子や中性子)であり、これらの構成要素の大きさを表すにはフェムトメートル(10のマイナス15乗メートル)の尺度が用いられる。一方、細胞内部の小胞体のような構造の場合、尺度はナノメートル(10のマイナス9乗メートル)であり、2つのあいだの比率を取ると100万分の1(10のマイナス6乗)もの開きがある。
これほど異なる枠組みから同じ構造が形成されるというのは、不思議であり、非常に興味深い。フーバー氏は、「今回見つかった類似性にはまだ多くの謎が残されており、研究は始まったばかりだ」とし、「中性子星の表面のように陽子と中性子が高密度に凝縮する系では、核物理系のモデル化に関してまだ理解されていないことがあるのだろう」と話す。高密度核物質中では、強い核力と電磁力が物質の相に影響するため、中性子と陽子の小さな集合に対して働く力の観察からは予想できないような変化が起こる可能性があるという。