理化学研究所(理研)は11月2日、脊髄小脳変性症の患者からiPS細胞を樹立し、病態の一部を再現することに成功したと発表した。
同成果は、理研 多細胞システム形成研究センター非対称細胞分裂研究チーム 石田義人客員研究員、六車恵子専門職研究員らの研究グループによるもので、11月1日付けの米国科学誌「Cell Reports」オンライン版に掲載された。
脊髄小脳変性症6型(SCA6)は、遺伝性神経変性疾患のひとつで、小脳神経細胞が選択的に変性、脱落する病気。現在、有効な治療法は確立されていない。SCA6では、原因遺伝子の「CACNA1A」でグルタミン酸をコードするCAGリピート配列が異常に伸長し、小脳皮質での情報処理の中心となる小脳プルキンエ細胞内にグルタミン酸が蓄積することが知られているが、神経変性に至るメカニズムは明らかになっていなかった。
六車専門職研究員らは2015年に、ES細胞およびiPS細胞から小脳神経細胞を作製する方法を開発しており、同研究グループは今回、その手法を応用し、SCA6患者の皮膚細胞あるいは血液細胞から樹立したiPS細胞を小脳プルキンエ細胞へと分化誘導して病態の一部を再現した。
CACNA1Aは、神経細胞に存在するP/Q型Ca2+チャネルのα1サブユニットをコードする遺伝子だが、SCA6患者由来の小脳プルキンエ細胞を観察した結果、健常人の同細胞に比べP/Q型Ca2+チャネルのα1サブユニットのCav2.1が異常に蓄積していた。また、患者由来プルキンエ細胞では、CACNA1AのC末端がコードする転写因子(α1ACT)、およびその標的分子(TAF1、BTG1)の発現が低下していることがわかった。
さらに、プルキンエ細胞の維持・成熟に重要な甲状腺ホルモンT3を除くという細胞にストレスを与えるような特殊な条件下で培養をすると、高い“脆弱性”を示して、樹状突起が太くなり枝分かれの数が少なくなるなどの形態に変化が現れ、細胞の生存数も著しく減少していた。この形態変化を指標に化合物評価を行ったところ、SCA治療薬の甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)や筋委縮性側索硬化症治療薬のリルゾールにその脆弱性を抑える効果があることが明らかになっている。
同研究グループは、今回開発した新たな病態モデルによって、これまで不明だったSCA6の病態解明と創薬研究への道が開かれることが期待できると説明している。