スタンフォード大学とオックスフォード大学の研究チームは、新構造のペロブスカイト太陽電池を開発し、変換効率20.3%を達成したと報告した。バンドギャップの異なる2種類のペロブスカイト半導体を積層したタンデム構造とすることで変換効率の向上に成功したという。研究成果は科学誌「Science」に掲載された。

化合物半導体であるペロブスカイトを用いた太陽電池は、2012年に変換効率10.9%が報告されて以来、ここ数年間で急速に研究が進み、昨年ごろから変換効率20%台に達したとの報告がいくつか出てきている。変換効率は市販されているシリコン太陽電池に匹敵するレベルになってきており、シリコンと比べて製造コストを大幅に下げられる可能性があるため、いま最も注目されている太陽電池である。

シリコン太陽電池にペロブスカイト層を追加することで変換効率を向上させる方法もあるが、研究チームが今回作製した太陽電池はシリコンを使用しない完全ペロブスカイト太陽電池である。

半導体は、材料によってそれぞれ異なるバンドギャップを持っており、バンドギャップの違いが電子デバイスの性能の違いになって表れる。太陽電池の場合、バンドギャップが大きな半導体ほど高エネルギーの光(可視光など短波長の光)を高電圧の電気エネルギーに変換できるが、低エネルギーの光(赤外領域など長波長の光)は発電に利用することができない。一方、バンドギャップが小さな半導体は、低エネルギーの光で発電可能だが、大きな電圧は得られない。

今回作製されたタンデム型ペロブスカイト太陽電池の電子顕微鏡による断面像。上層(茶色の部分)で低エネルギーの光を、下層(赤色の部分)で高エネルギーの光を吸収する(出所:スタンフォード大学)

研究チームは今回、バンドギャップの大小が異なる2種類のペロブスカイト半導体をタンデム型に積層した太陽電池を作製し、高エネルギーの光と低エネルギーの光の両方を発電に利用できるようにした。これまで作製が難しいとされていたバンドギャップの小さなペロブスカイト半導体は、スズ、鉛、セシウム、ヨウ素および有機物の組成比を工夫することで実現した。論文によると、そのバンドギャップは1.2eVであり、赤外光を吸収して電気に変換する太陽電池としての効率は14.8%となっている。これをバンドギャップが大きく可視光を利用して発電するもうひとつのペロブスカイト半導体と組み合わせることで、全体として変換効率20.3%を達成した。

ペロブスカイト太陽電池はシリコンと比べてありふれた材料で作製することができる。また、結晶シリコンの精製プロセスに1600℃程度の高温が必要となるのに対して、ペロブスカイト太陽電池は常温で材料をガラス基板などに印刷塗布するだけで作製できるため、製造時に消費されるエネルギーを大幅に抑えることが可能となる。

ただし、ペロブスカイト太陽電池を実用化するうえでは、屋外で長期間使用した場合の安定性、耐久性に問題が残っているとされている。研究チームは今回作製したペロブスカイト太陽電池について、安定性の評価を行うため、100℃の環境に4日間置くという実験を行った。その結果、鉛ベースのペロブスカイト太陽電池としては、熱的安定性および大気安定性についてこれまでになく良好な性能が確認されたという。

研究チームは今後、材料組成の最適化を進め、より多くの光を吸収して高い電流を発生させることができるデバイスの開発を目指すとしている。