米国の宇宙企業スペースXは7月18日、国際宇宙ステーション(ISS)へ補給物資を届ける「ドラゴン」補給船運用9号機(CRS-9)を搭載した「ファルコン9」ロケットを打ち上げた。ドラゴン補給船は予定どおりの軌道に乗り、またロケットの第1段機体は発射台近くの着陸場へ着陸し、完璧な成功を収めた。

ラゴン補給船運用9号機を搭載したファルコン9ロケットの打ち上げ (C) SpaceX

第1着陸場に着陸したファルコン9の第1段機体 (C) SpaceX/Elon Musk

ロケットは日本時間7月18日13時45分(米国東部夏時間7月18日0時45分)、フロリダ州にあるケイプ・カナヴェラル空軍ステーションの第40発射台から離昇した。ロケットは順調に飛行し、約2分後に第1段機体と第2段機体とを分離した。

第1段機体はその後、飛んできたコースをUターンするように飛行し、発射台近くの「ランディング・ゾーン1(第1着陸場)」へゆるやかに着陸した。

一方の第2段機体はその後も宇宙へ向けて飛行を続け、打ち上げから9分37秒後、ロケットの先端に積んだドラゴンCRS-9を分離し、計画どおりの軌道へ送り込んだ。ドラゴンはその後、太陽電池パドルの展開や地上との通信確立にも成功。このあと単独で飛行を続け、約2日後にISSに到着する予定となっている。

ドラゴンCRS-9

ドラゴン補給船はスペースXが開発した無人の補給船で、ISSへの物資補給を目的としている。これまでに11機が打ち上げられ、最初の2機による試験飛行を経て、3機目からは米国航空宇宙局(NASA)からの委託によるISSへの商業補給ミッションを担っており、今回が同ミッションの9号機となった。同ミッションは全20回が予定されており、今後11機の打ち上げが予定されている。なお2015年6月28日に打ち上げられた7号機(CRS-7)はロケットが打ち上げに失敗し、補給物資とともに大西洋に墜落した。

今回のCRS-9には、水や食料、日用品、実験機器、ISSで使う予備部品など、約2270kgもの補給物資が搭載されている。これらはドラゴンの到着後、ISSに滞在している大西卓哉さんら6人の宇宙飛行士らによってISS内へ搬入される。

その中でもとくに重要なのは、新型宇宙船がISSにドッキングするためのドッキング・アダプター「IDA-2」(International Docking Adapter-2)で、スペースXが開発中の「ドラゴン2」や、ボーイングが開発中のCST-100「スターライナー」といった新しい有人宇宙船がISSにドッキングするのに必要不可欠な装備となっている。IDA-2はドラゴン到着後、ロボット・アームを使って取り出され、ISSのハーモニー・モジュール(ノード2)に設置される。なおIDA-1は前述のドラゴンCRS-7の失敗により失われている。

ドラゴンCRS-9はISSに約1カ月間係留された後、実験の成果物など、地球に持ち帰る物資を搭載して分離。大気圏に再突入し、バハ・カリフォルニア沖の太平洋上へ帰還する計画となっている。その後は船で回収され、地上で船内の物資などが取り出される。ドラゴン補給船は耐熱シールドなどを除く大部分が再使用できるようになっており、打ち上げ後の記者会見では、運用11号機、もしくは12号機あたりで再使用したいとの考えが表明された。

またドラゴン補給船を基にした有人宇宙船「ドラゴン2」の開発も続いており、2017年5月ごろに無人での試験飛行が予定されている。

ドラゴン補給船運用9号機 (C) SpaceX

ドラゴンに搭載されているドッキング・アダプター「IDA-2」(International Docking Adapter-2) (C) NASA

ロケット第1段は着陸成功

スペースXはロケットの低コスト化を目指し、一度打ち上げたロケットを回収し、再び打ち上げに使うための開発や試験を数年前から続けている。とくに最近の打ち上げでは、ロケットの第1段機体を陸上や船へ着陸させる試験がほぼ毎回行われており、もはや恒例行事となっている。

昨年末には発射場に程近い場所にある「第1着陸場」へロケットを着陸させることに成功。今年4月から5月にかけては、大西洋上に用意された船の上への着地に3回成功している。

陸に戻すのと海上の船に降ろすのとでは、それぞれ長所と短所がある。陸に戻る場合、ロケットがエンジンを噴射してUターンし、それまで飛んできたコースを引き返す必要があり、その分推進剤に多くの余裕が必要となる。しかし、発射台や整備棟に近い場所に降ろせるため、輸送の手間がかからない。

一方、海上の船に降ろせるようになれば、Uターンの必要がなくなり、衛星の質量や打ち上げる軌道の都合で余裕が少ない場合でも機体を回収できるようになるため、再使用の頻度を上げることができる。しかし技術的な難易度は上がり、また船を運用したり、港で陸揚げしたりといった手間が増える。

基本的には、打ち上げる衛星の質量などによる、ロケットのエネルギー的な余裕の大小に応じて、陸と海のどちらに降ろすかを選択する。

通常、ファルコン9が陸上、もしくは船上に着地する際には、発射場まで戻るようにUターンするための(あるいは海上に降りるように水平方向の速度を落とすための)「ブーストバック噴射」、大気圏再突入時の速度を抑えるための「再突入噴射」、最終的に着陸するための「着陸噴射」の、大きく3回のエンジン噴射を行う。

しかし、直近3回の打ち上げでは、重い衛星を遠くの軌道まで飛ばすミッションだったため、ロケットに残る余裕が少なく、ブーストバック噴射が行えなかった。そのため、通常よりも速い速度で大気圏に再突入するため制御が難しく、また大気から受ける熱・圧力も大きくなるといった、難しい条件での着地を強いられることになった。そこで、通常は1基のエンジンで行う着陸噴射を3基のエンジンで行うことで、急ブレーキをかけるようにして一気に降下速度を落とすという新しい方法が導入され、高い難易度ながら、まずまずの成功を収めている。

今回はロケットのエネルギーに多くの余裕が残るミッションだったため、陸への着陸が行われた。陸への着陸は2015年12月22日以来2回目で、2連続成功となった。着陸後、スペースXのイーロン・マスクCEOは「着陸後の機体の検査を行った結果、機体はすべて良好な状態のように見える。再打ち上げも可能だ」と語っている。

ファルコン9の打ち上げは今回で今年7機目となった。スペースXの次の打ち上げは、8月のスカパーJSATの通信衛星「JCSAT-16」の予定で、正式な発表はないものの、衛星の質量や目標軌道から、大西洋上の船への着地が試みられることが予想される。

スペースXでは今後も2~3週間おきにファルコン9を打ち上げるとともに、回収試験も続け、さらに今年の秋ごろには、回収したロケットの再使用に挑みたいと明らかにしている。また今年中には、ファルコン9を3基束ねた超大型ロケット「ファルコン・ヘヴィ」の打ち上げも予定されている。

ロケットの打ち上げから着陸までを収めた写真 (C) SpaceX

【参考】

・http://www.spacex.com/sites/spacex/files/spacex_crs9_press_kit.pdf
・CRS-9 Dragon Mission | SpaceX
 http://www.spacex.com/webcast
・SpaceX
 https://blogs.nasa.gov/spacex/
・SpaceX Falcon 9 lofts CRS-9 Dragon launch and achieves LZ-1 landing | NASASpaceFlight.com
 https://www.nasaspaceflight.com/2016/07/spacex-falcon-9-crs-9-dragon-launch/
・Live coverage: Falcon 9 launches cargo ship, lands back at Cape Canaveral – Spaceflight Now
 http://spaceflightnow.com/2016/07/17/spacex-9-mission-status-center/