東北大学(東北大)は5月16日、防虫剤として知られた分子「ナフタレン」がもととなる、全固体リチウムイオン電池の新しい負電極材料を開発したと発表した。
同成果は、東北大 原子分子材料科学高等研究機構 磯部寛之主任研究者(東京大学大学院理学系研究科教授)、佐藤宗太准教授、折茂慎一教授らの研究グループによるもので、5月13日付のドイツの科学誌「Small」に掲載された。
長年、リチウムイオン電池の負電極材料として、軽量かつ大きな電気容量をもつグラファイト(黒鉛)が利用されていたが、グラフェンやカーボンナノチューブといったナノカーボンの登場により、負電極炭素材料の電気容量が2倍~3倍にまで大容量化ができる可能性が示されたため、最近これらが一躍注目を集めるようになった。
同研究グループは今回、磯部主任研究者らが2011年に設計・合成した大環状有機分子が、リチウムイオン電池の大容量電極材料となることを発見した。同分子は、同研究グループが「穴あきグラフェン分子」と呼んでいるとおり、分子中央部にナノメートルサイズの孔をもった構造をしている。この分子の固体を電極にした電池の電気容量およびリチウム容量は、実用されている黒鉛電極の2倍以上にも及び、その容量は65回の繰り返し充放電を行っても完全に保たれたという。
さらに同研究グループは、同分子がどのようにして大きな電気容量・リチウム容量を実現しているかを調べるため、粉末X線回折を行った。この結果、同分子が積層すると、中央にある孔が揃うことが明らかになった。つまり同分子の固体においては、黒鉛に似た積層構造に加え、それを貫く細孔構造ができあがっており、このナノサイズの空間が、リチウムに通り道と蓄積場所を提供したことで、大容量化につながったと考えられるという。