組体操の安全対策、委員からはどのような指摘があった?

組体操などの事故を防ぐために東京都が設置した「体育的活動における安全対策検討委員会」。「東京都の組体操事故、小学校では1年で563件 - 安全対策の検討開始」と題した前編では、都内における組体操事故の実態や、初開催となった1月22日の協議のポイントについてご紹介した。今回は、委員からどのような意見や指摘があったのか、具体的な協議内容をお伝えする。

けがをしやすい子どもが増えている

なぜこのような事故が多く起こってしまうのか。文教大学で主に小学校教諭の養成を行っているという米津光治教授は、「端的に言えば、けがをしやすい子どもたちが増えている」と指摘した。一方で、子どもたちの運動能力が低下しているにも関わらず、それに合わせた指導方法は、組織で共有されていないという。

「教員は自分の経験則の中で指導する場合が多い。しかし、子どもたちの運動能力は、自分たちがかつて組体操を教わった時代と変わっている。指導の仕方も変えなければいけないが、そうはなっていない」と問題提起した。

さらに、体育科目の授業研究を行っている江戸川区立西葛西小学校の山下靖雄校長は、「子どもの運動能力を考えると、技が実態にあっていない。教員が技の難易度を理解していないケースが見受けられる」と語った。「保護者の期待にこたえようと、自分もやったことがないような技の組み合わせを考えている場合も多い。効果的な指導方法が分からず、焦りもあるからけがにつながっているのだと思う」と指摘した。

山下校長によれば、保健・体育の指導要領で、組体操は扱われていない。体育の授業研究においても、組体操などの運動会で行われる活動は、情報交換をするにとどまり、研修が充実しているとは言えないという。

教員の指導、「基本中の基本ができていない」

「基本中の基本ができていない」と教員の指導力不足を嘆いたのは、中学校体育連盟の理事も務めた大田区立雪谷中学校の新宮領毅校長だ。「けがを防ぐ落下の仕方を教えていない」「周囲に教員を配置しても、何か起きたときに対応できるような構えができていない」「組み立てていく過程で声かけが必要なのに、全てアイコンタクトでやろうとしている」など、さまざまな問題点をあげた。

「突然運動会だからといって、組体操をやりますといっても無理。危険状態としか言いようがない。まさに無知と無理、これが事故を繰り返す原因となる」と強い口調で語った。

「やめる勇気」を

足立区教育委員会教育指導室の浮津健史室長は、「やめる勇気も必要だ」と主張した。同区では、目玉行事として地域の人から組体操を見たいという要望が寄せられることもあるという。そんな中で、競技自体をやめてしまうのは難しい判断なのかもしれない。しかし、「ここまでできたらやる、ここまでできなければ次のステップは踏ませないという判断が必要」と強調した。

また東京都小学校PTA協議会の小野関和海会長は、「期待にこたえるために、怠ってしまった事柄があると言うなら、保護者としては望んでいない。安全を一番に重視してほしい」と訴えた。また、「今の子どもたちは走っていても転び方を知らない子が多いように思える。ルールを決めるだけではなく、転落したときの受け身の方法などを身につける、子どもたち側の準備期間をしっかりとっていただきたい」と要望した。

最後に委員長を務める日本女子大学の坂田仰教授は議論を受けて、「子どもの安全が前提であり、その前提を崩してまで華美な組体操競技に走る必要はない」と再度確認。その上で、「運動会は体育の発表の場であって、組体操に取り組むにあたっては、日常的な活動を含めた子どもたちの状況を前提としなければならない」とまとめた。

さらに教員側の課題として、「競技のどの点に危険性があり、どこに対応しなければいけないか、それを欠いたままやると事故が起こっても何もできない」とした上で、「危険や事例を分析して共有できる仕組みが必要なのではないか」と提言した。

一方で、「組体操自体をやらなければ事故は起こらないという考え方はすごく後ろ向き。今の子どもたちは転び方を知らないという声もあったが、小さなけがをしながら子どもたちはそれを覚えていき、育っていくのだと思う」とも語った。あくまでも、安全と子どもたちの成長のバランスを見ながら、事例の分析などを通して事故の未然防止につなげていくという姿勢のようだ。

次回の開催は2月29日の予定。3月には報告書をまとめ、都教育委員会に提出するという同委員会の協議の行方を今後も追っていく。