東北大学(東北大)と防衛医科大学(防衛医大)は1月18日、騒音性難聴に関する遺伝子を発見したと発表した。

同成果は、東北大学 加齢医学研究所 遺伝子発現制御分野 本橋ほづみ 教授と防衛医科大学校 松尾洋孝 講師らの研究グループによるもので、1月18日付けの英科学誌「Scientific Reports」に掲載された。

日常生活の中で大音を聞いたことがきっかけとなり生じる騒音性難聴は近年、内耳の酸化ストレスの増大が主要な原因であることが明らかにされてきた。このことから、内耳の抗酸化機能を強めることにより騒音性難聴を治療できると考えられるが、有効な薬はこれまでに開発されていない。

今回、同研究グループは、酸化ストレス応答や異物代謝などの生体防御機構で中心的な役割を果たしている転写因子NRF2に着目。NRF2を欠損するマウスに強大音を聞かせたところ、聴力の低下が顕著であり騒音性難聴になりやすいことがわかった。また、正常のマウスにNRF2活性化剤をあらかじめ投与してから強大音を聴かせると、聴力の低下が抑制された。これにより、NRF2の働きを強めることは騒音性難聴の予防に有効であることが明らかになった。一方、強大音を聞かせた後にNRF2活性化剤を投与しても、聴力の低下を防ぐことはできなかったという。つまり、内耳が強大音により障害された後になってしまうと、NRF2の働きを強めても効果は小さいと考えられる。

また同研究グループは、NRF2活性化剤を投与することにより、内耳では多くの生体防御に関わる遺伝子が誘導されており、酸化ストレスの指標となる過酸化脂質のレベルが低下することを明らかにした。NRF2は、酸化ストレス障害から内耳を保護することで、騒音性難聴を防いだといえる。

さらにこの結果を受けて、NRF2の量と騒音性難聴のなりやすさがヒトでも関連するかどうかを調べるため、自衛隊中央病院で健康診断を受検した602人の陸上自衛隊員の聴力検査の結果とNRF2遺伝子の一塩基多型の相関を検討した。この結果、NRF2が少なめになる一塩基多型を持つ人の方が、騒音性難聴の初期症状である4000Hzの聴力低下が多く見られることがわかった。これにより、NRF2遺伝子の一塩基多型をもつ人は、強大音にさらされる前にあらかじめNRF2活性化剤でNRF2の働きを強めておくことで騒音性難聴を予防できる可能性があると考えられる。

今回の研究では騒音性難聴を取りあげたが、もうひとつの主要な感音難聴である加齢性難聴でも、内耳の酸化ストレスがその原因であるとされているため、NRF2の活性化により内耳の抗酸化機能を高めることは加齢性難聴の軽減にもつながると期待されると、同研究グループは説明している。

NRF2遺伝子多型による騒音性難聴のなりやすさの違いを表した図。NRF2遺伝子のプロモーター領域に存在する多型により、NRF2が多めに作られるか、少なめに作られるかが異なる。NRF2を多めに持つ人は騒音性難聴になりにくく、少なめに持つ人はなりやすい傾向がある