宇宙航空研究開発機構(JAXA)は12月24日、宇宙飛行士の精神心理健康状態を評価する手法の高度化を目的に、JAXAの閉鎖環境適応訓練設備を用いた有人閉鎖環境滞在試験を実施すると発表した。

JAXAの閉鎖環境適応訓練設備 (C)JAXA

現在宇宙のストレスチェックはビデオ問診のみ

これまで、宇宙飛行士の精神状態を評価する手法は、基本的に2週間に1度の精神医学・心理学の専門家によるビデオ問診のみに限られており、より客観的な指標に基づくストレス状態評価手法の開発が求められている。

今回の研究は2015年度と2016年度にわたって実施され、2015年度は閉鎖試験を1回実施し、ストレス状態評価に有効な客観的指標(ストレスマーカー)候補を絞り込み、2016年度には閉鎖試験を最大3回実施してストレスマーカーの決定を目指す。

また、宇宙飛行士が滞在する国際宇宙ステーション(ISS)では健康管理を目的とした採血・採尿は行われておらず、ISSで解析されることはない。そのため同研究では非侵襲的かつ宇宙飛行士自身が軌道上でほぼリアルタイムに評価可能な手法の開発も目標とする。

試験では、成人男性8名がJAXAの閉鎖設備で共同生活を送り、その間行動・情報・食事などを制限するほか、グループ作業を含むさまざまな課題を与える。そうしたストレス負荷が、血液や尿などの生理的指標、反応速度などのパフォーマンス、音声・表情などにどのような影響を与えるかを検証し、専門家の面談によるストレス状態評価の変化と比較することで、有効なストレスマーカーを探っていく。

同試験の概要

試験で与えられるストレス負荷と測定項目

被験者は一般から募集

試験の対象となるのは20歳~55歳の健康な一般男性で、ジャパンクリニカルボランティアネットワークで被験者を募集する。第1回試験は2016年1月29日の基礎データ取得からスタートし被験者は2月5日~18日まで閉鎖環境に滞在することになる。なお、滞在後もデータ取得を行う。被験者が全日程を消化した場合、協力費として総額38万円が支払われる。

同試験で使用される設備はJAXAの筑波宇宙センターにあり、宇宙飛行士の選抜にも使用されたもの。試験中の生活サイクルはISSでの生活サイクルに似たものになる。

試験結果を被験者が知ることは基本的に出来ないが、遺伝子検査の結果は希望すれば提供される。また、対象が男性に絞られているのは、女性に比べてホルモンバランスの影響を受けにくく、精神状態に影響を与えるストレス以外の要素が少ないという点で、試験が実施しやすいためだという。

宇宙飛行士の精神状態の健康維持は、ISSでの活動はもちろんのこと、将来の超長期宇宙滞在や民間の宇宙利用などでも重要なポイントとなる。そのため、今回の研究を通じて宇宙滞在者の精神健康状態を評価する有効な手法が確立され、ISS以降の国際宇宙開発競争における日本のアドバンテージとなることが期待される。