岡崎慎司(レスター)がサッカーをしていく上で「最大の武器」と話しているものとは

アフガニスタン代表とのワールドカップ・アジア2次予選で、2ゴールを決めて存在感を示したFW岡崎慎司(レスター)。29歳とベテランの域に達した異能のゴールハンターはハリルジャパンへの生き残りをかけて、真骨頂でもある泥臭いゴールを求め続ける。

相手の死角から飛び込んで決めたゴール

お世辞にも華麗な一撃とは表現できない。勢いあまってピッチの上にあおむけに倒れた直後に浮かべた表情には、喜びよりも照れくささ、バツの悪さすら浮かんでいた。

紛争地帯で危険という理由で、隣接するイランの首都テヘランで開催されたアフガニスタン代表とのワールドカップ・アジア2次予選の第3戦。後半15分に決めたゴールに、岡崎の真骨頂が凝縮されていた。

MF原口元気(ヘルタ・ベルリン)とのワンツーで、FW本田圭佑(ACミラン)がゴール前に侵入してくる。利き足とは逆の右で、半ば強引にシュートを放った瞬間だった。

岡崎は誰よりも早く動き出していた。目の前の相手が一歩動くところを、すでに三歩を刻んでいる。本田のシュートがはね返ったこぼれ球の落下地点に、狙いを定めている。

クリアする体勢に入っていた相手は、おそらく何が起こったのかわからなかったはずだ。自らの死角の位置から、突如として目の前に青いユニフォームが飛び込んできたのだから。

相手の左足よりもボールひとつ分だけ前へ伸ばされた岡崎の右足は、崩れた体勢ながら確実にボールをヒットした。武骨さすら漂わせる一撃は相手キーパーの左脇をすり抜けて、ゴールネットを揺らした。

カンボジア代表戦後に漏らした危機感

わずか3分前。MF香川真司(ボルシア・ドルトムント)のスルーパスにボランチの山口蛍(セレッソ大阪)が抜け出し、左への折り返しを岡崎が決めて4対0とした時点で大勢は決していた。

いわばダメ押しのダメ押し。それでも、岡崎は貪欲にゴールを決め続ける理由があった。カンボジア、アフガニスタン両代表と対戦した今回のシリーズ。岡崎はこんな決意を明かしている。

「チームが一番必要としているのはゴールであり、勝利だと思うので、それに自分が貢献できるようにしたい。結局は内容がよくても結果を出せなければ評価されないし、得点できなければチームにとって自分は必要のない存在だといつも思っているので」。

いまも記憶に刻まれているのは、6月のシンガポール代表との予選第1戦。圧倒的に攻め込みながらゴールを奪えず、埼玉スタジアムを埋めたサポーターからブーイングを浴びた一戦だ。

ワントップを任された岡崎は、3対0で勝利したカンボジア戦でも無得点に終わっている。前半41分にはフリーでシュートを放ちながら、シュートは相手キーパーの正面に飛んでしまった。

「クオリティーが低かった」。

試合後に残した言葉には、常に抱いてきた危機感が映し出されていた。

座右の銘に込められた覚悟と存在意義

岡田武史監督のもとで代表入りした2008年から、いつも劣等感を抱いてきた。決して大柄とは言えない174cm、76kgのサイズに対してだけではない。スピードもなければ、ファンをうならせる技術もない。

プロとしての第一歩を踏み出した清水エスパルスでは、右サイドバック転向が検討されたこともある。「平均以下」の男が弱肉強食の世界を生き抜いてきた理由は、岡崎のこんな言葉に凝縮されている。

「クロスが上がった瞬間に頭から飛び込んで、直後に『いまのプレーは危なかったかな』と思うことはあります。それでも、こちらが体を投げ出せば、相手のほうが怯(ひる)んで引いてしまう。僕がちょっとでも躊躇(ちゅうちょ)したら、そっちのほうが危ない」。

座右の銘とする「一生、ダイビングヘッド」は広く知られている。頭から飛び込むプレーはプロ人生で貫く覚悟、岡崎というプレーヤーの存在意義が具現化されたものだった。

頭と右足の違いはあるが、アフガニスタン戦で決めた泥臭い一撃も、一歩間違えば相手に蹴り飛ばされるおそれもあった。それでも、岡崎は無意識のうちに体を投げ出した。

この勇気こそが最大の武器と、岡崎から聞いたことがある。

「これ(勇気)がなければ、どこかでサッカーをやめていたかもしれない」。

ターニングポイントで発揮されてきた勇気

どんな状況でも臆(おく)さない勇気は、サッカー人生のターニングポイントでも発揮されてきた。

全国から有望選手が集まる兵庫・滝川第二高校への進学を希望したときは周囲から猛反対され、実際に入学すると、当時の黒田和生監督からこんな忠告を受けた。

「3年生になっても試合に出られないぞ」。

卒業を前にしてヴィッセル神戸からもオファーを受けるまでに成長したが、あえて選手層の厚いエスパルスを選んだ。エスパルスでの序列は8人いたFWの8番目。それでも、自ら選んだ道に悔いはなかった。

「地元のチームだと、甘えが出てしまうので」。

挑戦の舞台をJリーグからブンデスリーガ、そして何人もの日本人選手が厚い壁にはね返されてきたプレミアリーグに移したいまも、岡崎は逆風が吹き荒れる状況をむしろ歓迎している。

エースストライカーとしての信頼を勝ち取ったマインツを、あえて飛び出した今シーズン。戦力的に苦戦を余儀なくされる昇格チームのレスターを新天地に選んだときも、岡崎は自身の原点を貫いたはずだ。

「ホントに負けず嫌いなので、はい上がっていく環境にいたほうが自分には合っている。目標が高いほど気合が入る。そこに向かう過程こそが大事だと思っているので」。

キングカズを超えるためのカウントダウン

3月の就任以来、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が岡崎にかける言葉は変わらない。

「ボックス内でどれだけ戦えるか、だぞ」。

ボックスとはペナルティーエリアのこと。指揮官の檄(げき)を真正面から受け止めているからこそ、岡崎も点取り屋としての自分をより色濃く打ち出す。

「ゴール前で相手DFと駆け引きをして、どれだけマークを外せて仕事をすることができるか。このチームでは、それ以外の仕事はあまり求められないので」。

だからといって、体を張って守備でも献身的に貢献する精神も忘れていない。その上で、ハリルホジッチ監督が求める結果も残してみせる。

ハリルジャパンでは川又堅碁(名古屋グランパス)、大迫勇也(ケルン)、興梠慎三(浦和レッズ)もワントップとしてプレーしているが、いずれも岡崎の牙城を崩すまでの結果を残していない。

29歳とベテランの域に達し、サバイバルへの意識をむき出しにする岡崎が常に数歩前を走っている。だからこそ、格下であるアフガニスタン戦で決めた2発も岡崎にとっては大きな意味をもつ。

代表通算ゴール数を「46」に伸ばし、ついに歴代2位の三浦知良(横浜FC)の「55」を追い抜くカウントダウンに入った。捲土重来(けんどちょうらい)を期す3年後のロシア大会へ。岡崎がはい上がっていくための目標が、またひとつ生まれた。

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筆者プロフィール: 藤江直人(ふじえ なおと)

日本代表やJリーグなどのサッカーをメインとして、各種スポーツを鋭意取材中のフリーランスのノンフィクションライター。1964年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒。スポーツ新聞記者時代は日本リーグ時代からカバーしたサッカーをはじめ、バルセロナ、アトランタの両夏季五輪、米ニューヨーク駐在員としてMLBを中心とするアメリカスポーツを幅広く取材。スポーツ雑誌編集などを経て2007年に独立し、現在に至る。Twitterのアカウントは「@GammoGooGoo」。