情報処理推進機構(IPA)は6月18日、2014年度に採択した「未踏クリエータ」24人のなかから卓越した成果を挙げた7名を「スーパークリエータ」として認定。経済産業省にて記者会見を行った。

IPAでは、突き抜けた才能を持つITイノベータを発掘・育成するために、2000年度から「未踏IT人材発掘・育成事業(未踏事業)」に取り組んできた。Rubyの開発者であるまつもとゆきひろ氏をはじめ、さまざまな業界で活躍するエンジニアや起業家が、未踏事業から数多く輩出されてきており、2014年までに採択されたクリエータ1,627名のうち約1割が起業に至っているという。

未踏クリエータのなかでも、新規性(未踏性)、開発能力、将来性といった「スーパークリエータ認定基準」に示された能力を顕著に備えている人材が「スーパークリエータ」として認定される。今回選ばれた7名のスーパークリエータたちが考案したサービスや製品は、スマホでの使用やIoTを想定しているのが特徴だ。同事業の統括プロジェクトマネージャーを務める慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特別招聘教授 夏野剛氏は「世界に今現在存在していないサービスおよびアプリケーションを開発していて、なおかつ9カ月間の厳しい指導に耐え、成果を出してきた7名だ」とスーパークリエータたちを評価する。

2014年度未踏事業の統括プロジェクトマネージャーを務める東京大学名誉教授 竹内郁雄氏(左)と慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特別招聘教授 夏野剛氏(右)

記者会見では、このうち6名のスーパークリエータが、デモンストレーションを交えながら自身の開発したサービスや製品について紹介した。

Web上の記事を用いてニュース動画を自動で生成するシステム

「世の中の情報をわかりやすくし、世界中の人たちに届けたい」と、Web上の記事を用いてニュース動画を自動生成するシステム「Motionium」を開発したのは、筑波大学情報学群知識情報・図書館学類 知識情報システム主専攻4年の稲垣洸雄氏。1本約30秒程度のニュース動画は、画像/動画と字幕、BGMから構成されており、そのすべてが自動で処理されるという。動画1本当たりの制作時間はわずか3分だ。

ウェブ上の記事から自動的に大量の動画コンテンツを生成するシステム「Motionium」により作成された動画

筑波大学情報学群知識情報・図書館学類 知識情報システム主専攻4年 稲垣洸雄氏

GUIのみでアプリケーションを開発できるWebサービス

史上最年少でスーパークリエータに採用された慶應義塾高等学校第1学年の岡田侑弥氏と竹田聖氏は、小中学生へのプログラミング教育を目的として、GUIのみでスマホ用のアプリケーションを作成できるWebサービス「AppLy.ly」を開発。「視覚情報だけでプログラミングができるサービスはほかにもあるが、そのどれもがゲーム開発に特化したもの。ゲームという“遊び”しかつくれないのでは、僕たち中高生はものたりなく感じてしまう」(竹田氏)と、チャットやメールなど普段使っているスマホ用のアプリケーションに着目した。

慶應義塾高等学校第1学年の竹田聖氏(左)と岡田侑弥氏(右)

「AppLy.ly」の開発画面 コードを記述することなくアプリを開発することができる

岡田氏と竹田氏は、同サービスを使って、実際に小中学生に向けてワークショップを行っているという。AppLy.lyは現在公開準備中となっており、Webサイトにて事前登録を行っている。

AppLy.lyを使って開発されたチャットアプリ

照明の色を変更することができるアプリも作成できる

画像マッチングによりメイク手法を推薦してくれるアプリ

筑波大学大学院システム情報工学研究科 神武里奈氏は、画像をマッチングさせることで、ユーザ自身の顔を「なりたい顔」に近づけるメイク手法を推薦してくれるアプリ「YUMEKA」を開発。インターネット通販サイトのAPIから化粧品情報を取得し、商品の特徴色を画像分析して適切な商品を購入するところまでをサポートしている。神武氏自身もメイクに自信がなく、実際にアプリを使って化粧品を購入したそうだ。

三味線の演奏を支援するアプリ

三味線演奏を支援するアプリ「Aibiki」を開発したのは、自身も10年の三味線歴がある東京大学大学院情報理工学系研究科 修士2年の濱中敬人氏だ。同アプリでは、楽譜、調弦など、独特の手法が用いられる三味線演奏において、演奏を総合的に支援する。同アプリは英語にも対応しており、すでに三味線レンタル企業と連携しているという。

アプリの伴奏にあわせて演奏する濱中氏

「Aibiki」の概要

髪の毛で音を感じることができる聴覚障がい者向けデバイス

キヤノン総合デザインセンターヒューマンインターフェースデザイン部 本多達也氏は、ろう者団体での自身の活動を通じ、聴覚障がい者に向けて、振動と光で音知覚をサポートするデバイス「ONTENNA」を開発した。ONTENNAの利用により、動物の鳴き声のパターンや車の通過時の音の変化を知覚することができる。本多氏は、すでに聴覚障がい者団体にONTENNAを配布しており、記者会見では、ONTENNAを用いることでリコーダー演奏ができるようになったろう者の動画が紹介された。本多氏は「このデバイスを使うことで健常者とろう者のギャップが少しでもなくなれば」としている。

キヤノン総合デザインセンターヒューマンインターフェースデザイン部 本多達也氏

ONTENNAを利用しているろう者の様子が動画で紹介された

夏野氏は「シリコンバレーだったら、この時点でお金が付くレベルだ」と評価していたが、いずれもまさに“未踏”領域に踏み込んだ革新的なサービスであるといえよう。

経済産業省 商務情報政策局 情報処理振興課 課長 野口聡氏

経済産業省 商務情報政策局 情報処理振興課 課長 野口聡氏は、「IoTによって産業構造が大きく変化していくなかで、高度な技術を持つIT人材の需要が高まっている。経済産業省では人材育成にとどまらず起業支援も行っているが、未踏事業も今後さらに強化していきたい」と、今後も引き続き未踏事業に注力していく考えを示した。

なおIPAでは6月27日に、2014年度の未踏事業の修了式とスーパークリエータ認定証授与式を開催する。同イベントは一般にも公開され、2014年度スーパークリエータとの交流の場として「未踏スーパークリエータ交流会 」を併催。スーパークリエータたちによるショートプレゼンテーションや参加者との質疑応答などが予定されている。