2つの新規遺伝子が腎臓がんの原因遺伝子と協調して、腎臓がんの発生や増殖を抑えていることを、横浜市立大学大学院医学研究科泌尿器科学の蓮見壽史(はすみ ひさし)助教、矢尾正祐(やお まさひろ)教授らが発見した。腎臓がんの仕組みの一端を解明するもので、腎臓がん治療薬の開発の新しい手がかりとなりそうだ。熊本大学、東京大学、米国立衛生研究所(NIH)との共同研究で、3月16日付の米科学アカデミー紀要オンライン版に発表した。
がんは多数の遺伝子に異常が起きて発生し、進行する。腎臓がんでは、FLCNというがん抑制遺伝子が2002年に見つかった。研究グループは2006年と2008年に、FLCNに結合するFNIP1とFNIP2という2つの新規遺伝子を発見した。しかし、FNIP1やFNIP2の腎臓での役割は不明で、FLCNのがん抑制機能に関わっているかどうか、もわかっていなかった。
研究グループはこれまでに、FLCNとFNIP1が筋肉や心臓では協調的に働いていることを確かめていた。しかし、FNIP1を腎臓から取り除いても、筋肉や心臓と違い、腎臓には何も起きなかった。その理由が疑問だった。腎臓では「FNIP1によく似た遺伝子のFNIP2が重要な役割を果たしているのではないか」と考え、FNIP2をマウスから取り除いてみたが、この場合も、腎臓だけでなく、全身の臓器で何も異常なことは見られなかった。
マウスのいろいろな臓器でFNIP1とFNIP2の発現量を比べてみた。筋肉と心臓ではFNIP1が圧倒的に多い一方、腎臓ではFNIP2の発現量がFNIP1と同じレベルであることがわかった。この腎臓でのFNIP2の発現が、FNIP1を取り除いたマウスの腎臓に何も起こらなかった原因とみて、マウスの腎臓でFNIP1とFNIP2を同時に取り除いたところ、腎臓細胞が異常増殖を起こし、最終的に重量が10倍以上にもなった。
さらに、FNIP1とFNIP2を同時に取り除いたマウスを長期的に観察していると、生後2年で、FLCNを取り除いたマウスと同じように腎臓がんが形成され、FNIP1とFNIP2がFLCNと協調して腎臓がんの発生を抑制していることを突き止めた。FLCN、FNIP1、FNIP2という遺伝子が作るタンパク質は互いが結合して複合体を形成する。研究グループは「この複合体ができなくなった時、腎臓細胞は異常増殖を始め、最終的にがん化する」と結論づけた。
今回の結果を進化生物学の観点から検討した。ハエなどでもともと1つだったFNIPが、ヒトのような高等動物に進化する過程で、腎臓細胞の異常増殖を確実に予防するために、FNIP1とFNIP2という2つのFNIPに分かれていったというシナリオが浮かび上がった。
蓮見壽史助教らは「腎臓がんの異常増殖を抑えるには、FLCN、FNIP1、FNIP2という遺伝子群の協調が鍵となることがわかった。今後はさらに基礎研究を進めて、この遺伝子群の発現による複合体形成の詳しい仕組みを解明しつつ、将来は複合体形成を促進するような腎臓がん治療薬の開発を目指したい」としている。