SAPジャパンは12月2日、SAP HANAの最新版SP9の提供を開始した。新機能として、単一のHANAインスタンス上で複数のデータベースを稼働できる「マルチテナントデータベースコンテナ」、インメモリとディスクでテーブルを動的に切り替える「ダイナミックティアリング」、データを柔軟に加工するための「スマートデータインテグレーション/スマートデータクオリティ」などを追加した。

バイスプレジデント ソリューション&イノベーション統括本部長 堀田徹哉氏

バイスプレジデント ソリューション&イノベーション統括本部長の堀田徹哉氏は、SAP HANAのロードマップと現在の位置付けについて「当初はインメモリデータベースとして投入したが、これまでに分析のSAP Business WarehouseやERP、CRMなどを含むSAP Business SuiteなどのアプリケーションをHANAプラットフォーム上で実行できるように整備してきた。HANAの上でアプリケーションが進化し、それにより業務価値を創造していくフェーズに入ったと考えている。あらゆるアプリケーションのためのインメモリ統合システム基盤だ」と説明した。

HANAのビジネスとしては、2014年9月現在で、顧客とパートナーのライセンス数が4,300ライセンス、SAP HANA上で動作する他社製アプリの数も1,700を超えたところだという。SAP Business Suite on Hana(SoH)の顧客数は1,500超、Business Warehouse on HANAは1,400超となっている。また、日本ではサービスの立ち上がり時期とも重なったことで180%成長を遂げるなど好調。特に、SoHの成長率は300%で、Business Suiteを採用した顧客が基盤としてHANAを選択する割合は71%を超えているという(2013年は47%だった)。公表しているレファレンスカスタマーは日本の小松製作所など含めグローバルで40社に達している。

ソリューション&イノベーション統括本部 リアルタイムプラットフォーム部長 大本修嗣氏

SP9の機能詳細については、ソリューション&イノベーション統括本部 リアルタイムプラットフォーム部長の大本修嗣氏が解説した。

大本氏はまず、HANAは、データベース、データ処理基盤、アプリケーション基盤を統合したブラットフォームであり、予測分析、テキスト、位置情報、業務分析などのライブラリを提供してきた発展の経緯を振り返った。そのうえで、SP9の大きなポイントの1つにマルチテナント機能があるとし、次のようにHANAにおけるSP9の位置付けを説明した。

「これまでの開発ロードマップにより、システム基盤としてのソフトウェアの機能は、HANA単一で充足できるようになった。ただ、ハードウェア上は、別々に機能を提供しているのが実情。たとえば、情報系やOLTP系などはそれぞれ別のHANAインスタンスで稼働している。単一のインスタンスに統合しようとすると、これまでは個々のシステム間をインタフェースを経由して連携せざるをえなかった。SP9では、データベースのマルチテナント機能をHANAネイティブに持たせた。これによって、1つのデータベースのなかに複数のスキーマをコンテナとして持つことによって、物理的にも複数のOLTPや情報系を持つことができるようになった」

具体的には、HANA上で複数のアプリケーションを稼働させる場合、SP8までの構成では、1つのデータベースに複数のスキーマとアプリを持たせる「MCOD: Multiple Components, One Database」構成を採用するか、ハードウェア上にハイパーバイザーをインストールして、複数のOS上で管理するかしかできなかった。SP9からは、1つのOS、1つのHANAインスタンス上で、複数のデータベース(テナントデータベース)を持つことができるようになった。

これまでの複数スキーマの構成と、マルチテナント機能の違い

マルチテナントデータベースコンテナ(MDC)のメリット

なお、こうした単一のHANAシステムでは、大容量のメモリを取り扱うことになるが、これについてはダイナミックティアリングというSP9で追加された新機能が活用できるという。ダイナミックティアリングは、「ホット(Hot)データとしてメモリ上にキープするが、頻度の低いデータは、ディスクのなかのデータベースにウォーム(Warm)データとして動的に退避していく仕組み」(大本)となる。

ダイナミックティアリングの機能とメリット

SP9では、このほかにもさまざま機能追加や機能改善が施された。大本氏は、HANAは、大きく4つのテーマに沿って開発が進められているとし、その4つが「クラウド対応」、「(情報系と基幹系を単一プラットフォームで扱う)アプリケーション基盤」「ビッグデータとIoT」「オープン性」だと説明。また、顧客のニーズは大きく3つに分けられるとし、その3つが、選択肢を拡張してビジネス要件に対応する「Accelerate」、まったく新しい価値を生み出す「Innovate」、合理化やTCO削減などの「Simplify」だと説明した。

新機能の位置付けをこれらのマトリクスに便宜的に整理すると、たとえば、マルチテナントは、クラウド対応のうちのInnovateに分類され、ダイナミックティアリングはビッグデータとIoTのうちのSimplifyに分類されるという。

機能マップ

Accelerateについては、デプロイメントできる環境の拡張と、サポートハードウェアの拡充を挙げた。デプロイメント環境の拡張では、日立やIBMのLPARといった論理パーティショニングによる仮想化をサポートしたほか、クラウドパートナーとしてIBMが提供するHANA Enterprise Cloud、Unisysが提供するHANAのマネージドクラウドの展開を開始した。また、ハードウェアについては、SIGのSGI UV、シスコの8ソケットサーバ、IBMのPower 7と8におけるSUSE Linuxなどが新たにサポートされた。

Innovateについては、系列データストレージサービスという新機能と、Hadoop統合機能の拡張を説明した。系列データストレージサービスは、スマートメーターやセンサー、金融業界などでの利用を想定した機能で、系列データを加工し、SQLとして扱いやすくするものだという。将来的には、系列データをテーブルに自動的に変換したりフィルタリングして分析機能も提供するという。

Hadoop統合機能は、Virtual UDFというデータ連携のためのユーザー定義関数をつかって、SAP HANAからHDFSに直接アクセスできるようにする機能。Map Reduceジョブが実行可能で、Virtual UDFをSQLに埋め込むことも可能という。

系列データストレージサービス

Hadoop統合機能の拡張

Simpifyについては、データを加工しやすくする「スマートデータインテグレーション」、データクレンジングやジオコーディングを提供する「スマートデータクオリティ」、ストリームデータをイベント処理できる「スマートデータストリーミング」などの機能を紹介した。

スマートデータインテグレーションの機能とメリット

スマートデータクオリティの機能とメリット