超巨大ブラックホールから5分ほどで激しく変化する稲妻のような高エネルギーのガンマ線放射を、国際共同チームMAGICがチェレンコフ望遠鏡で初めて観測した。この現象は、地球から2.6億光年離れたペルセウス銀河団にある電波銀河「IC310」の中心の超巨大ブラックホールで発生した。まだ謎が多いブラックホールの近傍で起きる極限現象の解明の突破口になりそうだ。11月6日付の米オンライン科学誌サイエンスエクスプレスに発表した。

写真1. MAGICチェレンコフ望遠鏡により観測された電波銀河IC310。中心には太陽質量の3億倍の超巨大ブラックホールが存在する。ブラックホールは太陽と地球の距離の数倍の大きさ。左挿入図は、ブラックホールから噴出するジェット根元部分の電波望遠鏡による観測。(クレジット:The MAGIC Collaboration)

MAGICは、大西洋のカナリア諸島ラパルマ島に設置された2台の17m口径チェレンコフ望遠鏡からなる。宇宙から飛来する高エネルギーのガンマ線が大気中に入ったときに発生するチェレンコフ光を捉える世界最大級の装置で、日欧の約160人が参加している。日本からは東京大学宇宙線研究所の手嶋政廣(てしま まさひろ)教授、京都大学大学院理学研究科の窪秀利(くぼ ひでとし)准教授、東海大学、徳島大学、高エネルギー加速器研究機構の研究者たちが加わっている。

図. IC310で観測された短時間の激しい高エネルギーガンマ線の強度変動は、高速度で回転するブラックホール極軸付近の磁気圏に、電位ギャップが生成され、その電位差で電子、陽電子が加速されてガンマ線が放射されたとして説明できる。(クレジット:The MAGIC Collaboration)

写真2. MAGICチェレンコフ望遠鏡。世界最大級の17m口径のチェレンコフ望遠鏡2台からなる。カナリア諸島ラパルマ島にあるロケ・ムチャチョス天文台(標高2200m)に設置されている。2016年には、CTA計画の23m大口径チェレンコフ望遠鏡1号機が設置される予定。(クレジット:The MAGIC Collaboration)

MAGICの望遠鏡は2012年11月12日、天体IC310から非常に強烈なガンマ線放射を観測した。その放射は5分間という短時間で強く変動した。特殊相対論によると、物体表面全体の明るさが変化するには最低限、光がその大きさを通過するだけの時間が必要となる。IC310の中心にあるブラックホール(太陽質量の3億倍)は太陽と地球との距離の数倍程度で、光が通過するのに約20分かかる。このため、5分で激しく変動したIC310の爆発現象は全くの予想外だった。

今回観測された結果から、MAGIC チームはブラックホール周辺の出来事を次のように見た。ブラックホールが高速で回転して巨大な発電機になっており、極方向の磁場中に大電圧が発生して電位差が生じ、そこに強い電場が現れる。この電場に沿って電子や陽電子の荷電粒子が超相対論的なエネルギーにまで瞬時に加速され、周辺から降り注ぐ光子とぶつかってガンマ線を作りだすというシナリオを描いた。このガンマ線放射はブラックホールの極軸の近傍で起き、嵐の中で数分ごとに蓄えられる電気エネルギーを放つ稲妻に似ている。

MAGICチームの日本代表の窪秀利京都大学准教授は「ブラックホールの近傍で起きている極限的物理現象が見えてきた。ブラックホールで発生するジェットの仕組みを解く手がかりになる画期的な発見だ。ブラックホールを高エネルギー領域で観測することで、銀河の中心核を非常に深くまで踏み込んで研究できる。高感度のチェレンコフ望遠鏡は、謎の多いブラックホールとその周辺の極限現象の研究を進展させていくだろう」と話している。