理化学研究所(理研)は10月21日、無汗症患者の原因遺伝子を発見したと発表した。

同研究成果は理研脳科学総合研究センター 発生神経生物研究チームの御子柴 克彦チームリーダー、久恒智博 研究員とスウェーデンのウプサラ大学との共同研究グループによるもの。10月21日付け(現地時間)の米科学雑誌「The Journal of Clinical Investigation」オンライン版に掲載される予定。

人間は汗をかいて体温を調節するが、汗をかくことができないと熱中症やめまいを発症しやすく、重症化すると意識障害やけいれんなどを起こすことがある。このような無汗症の原因として、これまでに汗腺の形成不全や交感神経の異常などが報告されているが、その他の原因は明らかになっていなかった。

同研究チームは、パキスタンで先天性無汗症を発症する家系を発見。この先天性無汗症患者は、汗腺の形成不全や交感神経の異常が見られず、発汗の異常以外は健常者と変わらなかった。また、家族全員には症状が出ていないことから、この先天性無汗症の原因遺伝子は常染色体劣性遺伝子であると推測された。

そこで近親婚家系のDNAサンプルを用いてさらに詳しく解析を行ったところ、細胞内のカルシウム濃度に関わる「2型IP3受容体」の発現する遺伝子のDNA配列に変異があることが判明。その患者においては細胞外の刺激に応じてカルシウムイオンを放出する機能が完全に欠落していたという。

また、マウスを使った実験を行い、「2型IP3受容体」を欠損したマウスでは、汗腺の細胞内カルシウム量が低下し、汗の分泌量が減少することが確認された。これらの発見から、ヒトやマウスで「2型IP3受容体」が発汗に重要な機能を果たしていると結論付けられた。

同研究チームによると、今回の研究成果は無汗症だけでなく、多汗症の治療法確立にもつながることが期待されるという。

ヨウ素デンプン反応による発汗の様子。健常者は発汗によりヨウ素デンプン反応が進み汗が青紫色に染まる(上)のに対して、患者は汗が全くでていない(下)。