ソニーは18日、今期(2015年3月期)の純利益予想を▲500億円の赤字から▲2,300億円の赤字に修正し、配当予定をゼロとした。上場来はじめて無配になる。収益力の低下したモバイル・コミュニケーション(携帯電話端末)事業の「のれん」全額1,800億円を減損することが、赤字拡大の理由だ。同時に、今期中にモバイル事業の従業員を1,000名削減すると発表した。モバイル事業の拡大戦略を見直し、事業を縮小するためである。
今回、減損せざるを得なくなった「のれん」1,800億円は、2012年2月にソニー・エリクソン(ソニーとエリクソン社の合弁)を完全子会社にする時に発生したものだ。ソニーは携帯端末事業を中核事業の1つと位置づけ、エリクソンの保有株を買い取り、拡大路線に走った。ところが、完全子会社として社名を「ソニー・モバイル」に変えた後、ほとんど利益をあげられないまま、リストラを開始せざるを得なくなった。安値販売の中国メーカー(小米科技)台頭で競争力を失ったためだ。今後は、高付加価値の端末にしぼって生き残りを目指すことになる。わずか2年前の判断ミスで、大きな代償を払うことになった。
かつて世界を魅了する製品を次々に出して輝いていたソニーは、復活することができるのだろうか。筆者は、その可能性は十分あると考える。
ソニーは見る角度によって「見え方」が変わる。ソニーが展開しているのは、赤字を出し続けるエレクトロニクス事業だけではない。輝く"宝石"のような事業も多数持つ。特に注目できるのは、着実な成長が期待される映画・音楽事業である。映画・音楽事業は、かつてのような当たり外れの大きな事業ではない。コンテンツ事業として安定収益を稼ぐだけでなく、今後アジアで事業拡大が見込める。
ソニーは金融事業でも着実に利益を稼ぎ続けている。また、一時不振であったゲーム事業も、将来は安定的に利益を稼ぐ事業とできる可能性がある。映画・音楽・ゲーム・金融を総合的に展開するグローバル企業として活躍する余地がある。
不振を極めているエレクトロニクス事業でも、技術力・商品開発力そのものは健在だ。イメージセンサ-など競争力があって成長が期待される製品も多々ある。アジア企業とまともに競合する普及品の製造をアウトソース(外部委託)し、アジア企業と競合しない高付加価値品の製造と開発に特化すれば、エレクトロニクス事業の利益建て直しも可能であろう。
ソニーは今、大きな事業構造の転換を行っているところだ。赤字を出し続ける事業を縮小し、利益を稼ぎ続ける事業に集中していく過程である。経営判断が遅い上に判断ミスもあって、事業構造の転換に時間がかかり過ぎているが、遅いながらも事業構造の変革に成功し、復活する日は来ると考えている。
執筆者プロフィール : 窪田 真之
楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。