ミトコンドリアはエネルギーを作りだす重要な細胞内小器官である。インフルエンザウイルスが細胞内に侵入した際にウイルスが作りだすタンパク質の働きで、そのミトコンドリアの機能が著しく弱まっていることを、九州大学大学院理学研究院の小柴琢己(こしば たくみ)准教授らが分子レベルで初めて解明した。

インフルエンザウイルスのタンパク質PB1-F2がミトコンドリアに浸入してその機能低下を起こす仕組み(提供:九州大学)

インフルエンザ対策を進める際の手助けとなる発見として注目される。九州大学医学研究院と東京大学医科学研究所との共同研究で、8 月20 日付の英オンライン科学誌ネイチャーコミュニケーションズに発表した。

ミトコンドリアは約10年前から、エネルギー産生に加え、RNAを遺伝子に持つインフルエンザなどのウイルスに対する自然免疫にも関わっていることがわかってきた。研究グループは、インフルエンザウイルスが細胞内に感染した際に作り出すPB1-F2というタンパク質の構造と機能に着目して解析した。

病原性が異なるインフルエンザウイルスの型の間で、PB1-F2の長さが違っていた。高い病原性で恐れられているH5N1型ウイルスが作るPB1-F2の大部分は90アミノ酸から成る長鎖で、ミトコンドリア内に運ばれてことを突き止めた。長鎖のPB1-F2はミトコンドリアの入り口となるチャネルタンパク質のTom40の中を通って侵入し、その蓄積によってミトコンドリアの形態が異常化して、最終的に細胞の免疫の低下をもたらすことを実験で確かめた。

一方、低病原性インフルエンザ(H1N1型)のPB1-F2 は主に57アミノ酸から構成される短鎖で、ミトコンドリアに侵入できず、ミトコンドリアの免疫の低下は起きなかった。ちなみに、2009年に出現して世界的に流行した新型インフルエンザウイルスH1N1亜型のPB1-F2はアミノ酸が11個とさらに短かった。

小柴琢己准教授は「あらかじめPB1-F2の長さをウイルス遺伝子から調べれば、感染後の対処の手がかりとなりうる。さらに、このタンパク質がミトコンドリアに入るのを阻害できれば、新しい治療薬としても期待できる。今後、ミトコンドリアを介した自然免疫の異常をより詳しく解析したい」と話している。