生理学研究所(生理研)は8月20日、生まれつき目が見えなくても、他者の動作を認識する脳のネットワークの一部が、目が見える人と同じように活動することがわかったと発表した。

この研究成果は同研究所 心理生理学研究部門の北田亮 助教ら共同研究グループによるもので、米科学学会誌 「The Journal of Neuroscience」に掲載された。

脳の中には、相手の動作を認識するために働くネットワークが存在し(Action Observation Network, AON)、その中には目で見た情報を専ら処理する脳部視覚野の一部(Extrastriate Body Area, EBA)が含まれる。このネットワークの存在によって人は目で見た相手の動作を素早く理解したり学んだりすることが可能となっている。

今回の研究調査では、視覚障害者28名(18名の先天盲と10名の中途失明者)と、年齢・性別が一致する28名の晴眼者を対象に、目が見えない人のAONが、目が見える人と比べてどう活動するかを調べた。

実験では4種類の手の動作をかたどった模型、4種類の急須の模型、4種類の車の模型をどちらの群も眼を閉じた状態で触り、手の模型に触れた場合はその手の動作を、急須や車に触れた場合は種類を4択で当てる課題(触覚識別課題)を実施。晴眼者群に対しては、同じ模型を見て当てる課題も行った(視覚識別課題)。

実験で用いた模型

その結果、晴眼者群ではどちらの課題でもEBAの活動が観察され、先天盲群でも同じ領域の一部が働いていることが確認された。これはAONが感覚に関係なく駆動するだけでなく、視覚を使った経験の有無に関わらず発達することを意味する。

黄色の領域が先天盲と晴眼者の両方で手の模型の動作を認識しているときに強く活動した部位。水色の部分はEBAを示している。

同研究グループは今回の成果について「なぜ目が見えなくても他者の手の動作を認識・学習することが可能なのかを説明し、目が見えない場合の社会能力の発達を考える上で重要な知見となる」とコメントしている。