国立天文台や中国地質大学などで構成される国際共同研究チームは7月28日、月の地下深くに軟らかい層が存在していること、ならびに、その層の中は地球の引力によって熱が効率的に生じていることを突き止めたと発表した。

同成果は、中国地質大学行星科学研究所の原田雄司 研究員、メリーランド大学ボルチモア郡校のGOOSSENS, Sander 研究員、国立天文台RISE月惑星探査検討室の松本晃治 准教授、武漢大学測絵遥感信息工程国家重点実験室のYAN, Jianguo准教授、中国科学院国家天文台のPING, Jinsong教授、国立天文台RISE月惑星探査検討室の野田寛大 助教、宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所の春山純一 助教らによるもの。詳細は「NATURE GEOSCIENCE」に掲載された。

これまで、月の内部の研究として潮汐力による形状変化が用いられてきたが、そうして得られた内部構造は、月周回衛星「SELENE(かぐや)」などによって得られた精密な月の形の変化の仕方を説明することができなかった。そこで研究グループは今回、どのような月の内部構造であれば観測された形の変わり方を説明できるのか、理論的な計算を用いて調べたという。

具体的には、月の深部の構造に着目。アポロ計画で得られた月の地震観測データなどによる内部構造の解析から、月の内部は金属でできた核と、岩石でできたマントルで構成されていると考えられてきたが、詳細な計算から、マントルの最下部に軟らかい層が存在すると仮定した場合、観測されている潮汐による月の変形を上手く説明できることを突き止めたとする。

これまでの研究から、月のマントルの最も深い所では岩石の一部が溶けているという可能性が指摘されてきており、今回の結果はその仮説を支持するものになるという。

また、マントル最深部の軟らかい層の中で潮汐によって効率的な発熱が起こっていることも判明。その発熱量がほぼ最大となるのは、計算と観測の比較から推定された軟らかさを仮定した場合であり、軟らかい層の中で生じる熱と、層の外へ逃げていく熱の絶妙なバランスによって、層自体が成り立っていることが考えられると研究グループでは説明する。

これらの結果を受けて研究グループは、マントル最深部の効率的に発熱する軟らかい層が、現在でも核を温め続けているとの考えを示しており、今後は、なぜマントル最深部の底の柔らかい状態がどのようにして長期間維持されているのか、この柔らかい層の中で起きる潮汐のエネルギーから熱のエネルギーへの変化が、月の地球に対する動き方や月の冷え方などに対して、どのような影響を及ぼしてきたのかといった謎の解明を目指すとコメントしている。

地球の引力による月の変形の模式図。地球に対する月の動きが完全な円からずれていることに由来する変形を示すもの。わかりやすいように、実際よりも大きく変形させて描かれている (C)国立天文台

今回の研究成果に基づく月内部構造の想像図 (C)国立天文台