インターネット上の住所にも例えられるドメイン。「.COM」や「.NET」などのトップレベルドメイン(TLD)を管理するICANNは、2012年に新たなTLDの受け付けを開始した。「.TOKYO」や「.OKINAWA」「.LONDON」などの地名や、「.CAR」「.SHOP」など一般名詞、「.CANON」「.NHK」など企業名といった様々なドメインが申請され、審査を経て、順次、ルートゾーンに追加されている。インターリンクが申請した「.MOE」ドメインのほか、ひらがなドメイン「.みんな」やアラビア文字やキリル文字などアルファベット以外のgTLDも誕生している。
今回のgTLDの拡張では1930件の申請が行われた。3回目となるこの新gTLDの拡張では、「申請条件を満たせば新設数を制限しない」「企業名やブランド名も可」「企業内での独占利用も可」といった点が特徴となっており、実際に「.APPLE」「.BBC」「.GMAIL」など企業名やサービス名の申請も数多く行われている。
この1930件の申請を国別に見ると、884件の米国がトップ。次いで、法人登記が比較的容易に行えるケイマン諸島が91件。日本は71件(内2件は取り下げ)で5位となっている。申請受付はすでに終了しているが、運用を開始しているドメインも含め1000を超える新たなgTLDが誕生することになる。
これら新gTLDの最新登録傾向についてトムソン・ロイターが7月9日にメディア向けの説明会を開催した。専門家向けの情報提供サービス企業である同社は、事業のひとつとして知的財産ソリューションを有している。この中でインターネット上での商標やブランドの不正使用などを防ぐオンラインプロテクションや、ドメインの登録から運用、管理、ウォチングまでトータルにサポートするドメイン名サービスを提供している。
同社 ブランドマネジメント ドメインサービス スペシャリスト 加藤 亜矢氏は、gTLDの取得には、ドメイン申請文字列を独占して使用できることや企業の公式サイトであることの保障、ブランディング効果といったメリットがあるとする。同社の分析によると、今回の申請においてもブランド名が652件と全体の1/3を占めるという。これは一般名称のgTLDの1144件に次いで多い。
一方で、クローズドでの運用が想定されるブランド名ドメインのほかに、ほぼ自由に登録できる一般名称のドメインも数多く生まれており、これらのセカンドレベルドメインの登録申請(「◯◯◯.moe」の例であれば、◯◯◯の部分)において商標権侵害などのリスクが高まる可能性もあるとする。
新gTLDにおいては、商標保護システムとしてTradeMark ClearingHouse(TMCH)が提供されている。これは、商標を保有する企業が事前に登録しておくことで、新gTLDの登録受付の開始にあたって、30日間の優先申請期間(サンライズピリオド)と、他社(他者)による申請の文字列監視を提供する有料サービス。
また、紛争解決手段についても、以前からのUDRP(Uniform Domain Name Dispute Resolution Policy)に加えて、Webサイトの閲覧停止などの措置をより迅速に行えるURS(Uniform Rapid Suspension System)といった仕組みが新たに導入されている(ただし、登録の取り消しや変更までは行われない)。
また大手レジストリの中には、自社が保有するgTLDについて第三者が登録できないようにするブロッキングサービスを提供している。例えば、「.COMPANY」や「.SYSTEMS」など多くの新gTLDを保有する米Donutsでは、商標権者向けに同サービスを5年間、2895ドルで提供している。Donutsの保有するgTLDには一般名称が多くあり、同サービスを利用することでドメインにおける商標権侵害を一定レベルで防ぐことが可能になる。同様のサービスは米Rightside registryも行っている。
セカンドレベルドメインの登録状況はどのようになっているのだろうか。同社によると、最初の新gTLDがルートに追加されてからの約8カ月間で150万件のドメインが取得されているという。
このうち、もっとも登録数が多いのが「.XYZ」。6月2日に一般登録を開始したばかりだが、すでに26万件を超える登録が行われている。
また、国別で見ると、米国が50万件超でトップ。次いでドイツが20万件超などとなっている。日本はまだ13000件ほどで13位。
日本において登録数上位のgTLDを見ると、おおよそ15%程度が企業の登録、85%程度が個人登録となっているという。
日本では個人の登録が多く、企業のマーケティングにおいては大日本印刷(DNP)がコミュニケーションサイト「ドットDNP(http://start.dnp/)」を開設するなどの利用があるが、まだ新gTLDの登場から1年も経ってないことから利用事例は多くはない。
とはいえ、加藤氏は「新gTLDによってドメイン数が急激に増え企業名や商標名と同一の文字列が第三者に登録されている例が多く見られる」と権利侵害に警鐘を鳴らす。また紛らわしいドメイン名が増えることで一般利用者が混乱する危険性もあるとする。
その上で、「企業内でどのドメインを取得するのかといった登録ポリシーを決めること」「新gTLDの情報を迅速に取得できる体制の構築」「TMCHやレジストリのブロッキングサービス、ウォッチングなどブランドと利用者を保護するための措置」などを企業が取るべき対策として挙げる。
これまで企業サイトなら「○○.co.jp」、キャンペーンサイトも企業サイトのディレクトリかサブドメイン、あるいは「.JP」を利用するなどドメイン選択の幅はそれほど広くはなかった。しかし、1000を超える新gTLDの誕生はドメイン選択の幅を広げるとともに、第三者がブランド名などを登録することが比較的容易な状況となっている。新gTLDの運用は始まったばかりだが、今後を見すえた対応が必要といえるだろう。