新潟大学は6月4日、脳梗塞の治療で有効な「血栓溶解療法」の弱点とされる合併症(脳出血、脳浮腫)が、タンパク質「アンギオポイエチン1(Ang1)」が減少することで生じることを解明したと発表した。

同成果は、同大脳研究所 神経内科の下畑享良 准教授、川村邦雄 医師、高橋哲哉 助教、金澤雅人 助教、同大脳研究所の統合脳機能研究センターらによるもの。詳細は学術誌「PLOS ONE」に掲載された。

脳梗塞に対する血栓溶解療法は「組織プラスミノゲン・アクチベーター(tPA)」を用いて、血管に閉塞した血栓を溶かし血液の流れを再開するというものだが、治療可能時間が4.5時間以内と短く、脳梗塞患者の5%未満しか治療の恩恵を受けることができないと言われている。この原因として、脳梗塞の発症後、時間が経過すると、脳の神経細胞だけでなく、血管にも障害が起こり、脳出血や脳浮腫が生じやすくなるためであり、その原因の解明が求められていた。

今回、研究グループでは、ヒトの脳梗塞に病態が類似したラット脳塞栓モデルを用いて、「アンギオポイエチン1(Ang1)」の減少がtPA療法後の血管の障害や脳出血、脳浮腫の引き金となっていることを確認したほか、強い活性をもつように合成したAng1をtPAとともに静脈に注射しAng1を補充したところ、血管に取り込まれた結果、治療後の脳出血や脳浮腫が抑制され、治療可能時間が延長できることを確認したという。

これらの結果により、研究グループでは、今後、tPAによる治療を受けられる患者数の増加が期待できるようになるほか、副作用を起こす患者数の減少による予後の改善、そして後遺症による要介護者の減少による医療費の抑制が期待できるようになるとコメントしている。

ラット脳虚血に対するtPA療法後の出血合併症、および脳浮腫に対するAng1の効果。赤い点がラットの脳内の血管に発現したAng1.緑が血管を作る細胞。青が細胞の核