サッカーのワールドカップ(W杯)が6月12日から7月13日にかけてブラジルで開催される。20回目となる記念大会で、世界中が沸き立つ。このブラジル大会で使われる公式球「ブラズーカ」は、前回の南アフリカ大会の公式球「ジャブラニ」よりも空気抵抗が少なく、ぶれにくいことを、筑波大学 スポーツR&Dコアの 洪性賛(ほん そんちゃん)研究員と体育系の浅井武教授らが実証した。ブラジル大会では、正確なパス交換やキックができる選手ほど活躍できそうだ。5月29日付の英オンライン科学誌サイエンティフィックリポーツに発表した。

写真1. サッカーボールの風洞実験装置(提供:筑波大学)

筑波大スポーツ流体工学実験室の低速風洞装置などで実験し、サッカーボールのパネルの枚数・形状・向きが、ボールの空力特性に与える影響を検討した。その結果、ブラズーカはジャブラニより、中速領域での空気抵抗が小さく、ボールの飛翔軌道も予測しやすいことがわかった。Jリーグは、今シーズンから公式戦でブラズーカを使っており、国内選手はこのボールに慣れているとみられる。

グラフ1. 風洞実験による各種サッカーボールの抗力係数(縦軸)。
(a)はブラジル大会公式球のブラズーカ。レイノルズ数(横軸)が大きい(風速が大きい)ほど、空気の流れは不安定。グラフの極小点を境に、ボール後方に生じる乱流が一時的に小さくなり、前方へ飛びやすくなる。(提供:筑波大学)

写真2. キックロボット実験装置(提供:筑波大学)

サッカーボールは合成皮革のパネルを複数枚貼り合わせて製造される。一般的なボールは32枚のパネルで構成されているが、最近は、さまざまな形や枚数のパネルによるボールが登場している。ブラジル大会公式球のブラズーカは6枚のパネルで作られている。2006年W杯のドイツ大会では14枚の「チームガイスト」、2010年南アフリカ大会では8枚のジャブラニが使われ、パネルの数は減ってきた。しかし、パネルの形状や数が異なるサッカーボールの飛翔特性や空力特性に関する研究はこれまでほとんどなかったという。

筑波大の研究グループは、6種類の現代サッカーボールを対象に、ボールを固定して風を当てる風洞実験を風の秒速7~35メートルまで変化させて実施し、ボールに加わる空力特性について、パネル数およびパネルの向きに着目して比較した。また、キックロボットを使って、実際に飛翔するボールの軌道を解析した。ボールのパネル数だけでなく、初期条件のパネルの向き自体が、空気力や飛翔軌道に大きく影響することを確かめた。さらに、風洞実験の結果と実際の飛翔軌道との関係を調べたところ、比較的よく一致し、風洞実験を用いた空力解析の正しさを裏付けた。

ブラジル大会公式球のブラズーカは風洞実験で、上下左右に揺れる力を受けにくかった。ロボットに蹴らせても、進行方向のぶれは少なかった。通常のパスに相当する秒速15~25メートルで飛ぶ場合に、空気抵抗が少なくて飛びやすくなり、正確なパスが期待できることもうかがえた。ブラズーカは、ほかの種類のボールに比べて比較的安定した飛翔特性を持っていることが明らかになった。

筑波大サッカー部の総監督を務め、キック研究の第一人者としても知られる浅井武教授は「こうした研究は、新しいボールの開発やデザインに応用できるだけでなく、最新スポーツ技術の理解・習得にも活用される」と指摘している。

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