生物が多様な環境に適応する源は遺伝子の重複にあった。種の生息環境の多様性が高いほど、重複遺伝子の数が多いことを、東北大学大学院生命科学研究科の玉手智史(たまて さとし)大学院生と河田雅圭(かわた まさかど)教授、牧野能士(まきの たかし)准教授が見いだした。全ゲノム情報がわかっている哺乳類16種の重複遺伝子数を比べて、生息環境の多様性と関連していることを確かめた。
研究グループは「ゲノム上で遺伝子がコピーされて重複している比率を調べれば、気候変動などの環境の急変に生物がどれだけ耐えられるか、ある程度推定できる」と指摘している。多様な環境に適応できる能力が獲得される仕組みを遺伝子レベルで解明する成果で、生物保全戦略を立てる際の新しい指標にもなりうる。4月16日の英科学誌Molecular Biology and Evolutionの電子版に発表した。
遺伝子が重複してコピーを作ることは突然変異の蓄積につながる。突然変異の蓄積は遺伝的な多様性を高めることになる。研究グループは、この遺伝子重複と生物の環境適応力の関連に注目して解析した。昆虫のショウジョウバエでは、重複遺伝子を多く持つ種ほど、生息環境が多様であることを見つけ、2012年の論文で報告している。
今回は、ゲノム情報が解読された種が多いほ乳類で研究した。サル、ネズミ、ウサギの仲間の16種について、生息する気候帯や食性などの環境の多様性と重複遺伝子の割合の関連をグラフにした。その結果、重複遺伝子を多く持つ種ほど、さまざまな環境に生息していた。また、生息環境の多様性が低い種ほど、重複遺伝子を多く消失していた。重複遺伝子のうち、小規模な重複で生じた遺伝子が環境への適応に関連していることもわかった。このほ乳類の傾向は、ショウジョウバエと共通しており、「どの生物にも当てはまる可能性が大きい」としている。
河田雅圭教授は「『重複遺伝子が多様な環境に適応できる能力の源』というのはかなり一般的な法則と思う。生物種のゲノムの重複遺伝子を調べれば、急激な気候変化で絶滅しやすいか、あるいは、環境適応力が強くて侵略的外来種になるのか、あらかじめ予想できる。遺伝子の重複の割合は、保全したり侵入を妨げたりする種の優先順位を考えるのに使えるだろう」と話している。