九州大学(九大)は、無機平板状結晶集合体を厚さ0.7nmの無機ナノシートに剥離するための簡便な手法を確立し、さらに、この無機ナノシートを混ぜたエポキシ樹脂分散液をスプレー塗布する手法で、無機ナノシートが等間隔で積層した構造を有する透明性の高い樹脂フィルムを作製したと発表した。
同成果は、カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER) 水素製造研究部門主任研究者/先導物質化学研究所の高原淳主幹教授、I2CNER 水素製造研究部門学術研究員のKevin White博士、テキサスA&M大学のH. J. Sue教授(当時、先導物質化学研究所客員教授)らによるもの。詳細は、英国国際学術誌「Nature Communications」オンライン版に掲載された。
今回、無機平板状結晶(αリン酸ジルコニウム)集合体を、厚さ0.7nmの無機ナノシートに剥離する簡便な手法を確立した。さらに、硬化前のエポキシ樹脂溶液に同ナノシートを分散させた溶液をスプレー塗布するという極めて簡易な方法により、無機ナノシートが10nmスケールの間隔を維持して規則正しく積層した構造を内部に有する、透明性の高いエポキシ樹脂フィルムを効率よく作製することに成功した。
また、放射光線源(SPring-8 BL40B2)を利用したX線散乱法と電子線トモグラフィー観察手法による構造解析、および樹脂溶液の粘弾性測定により、同技術の鍵は、高分子界面活性剤による無機結晶の表面改質で実現される無機ナノシートの有機溶媒への高分散性と、この分散液が自発的に形成するスメクチック液晶相の形成、液晶相の示す塗布工程に適した良好な粘弾性的性質(シアシックニング現象)であることが分かった。
そして、この平板無機ナノシート/エポキシハイブリッドフィルムは、積層した各無機ナノシートが効率的な気体分子の遮蔽壁として機能することで、良好なガスバリア性能を発揮することを実証した。無機物の添加により包装材料のガスバリア性能を向上させる技術は存在するが、今回のフィルムはナノテクノロジーを駆使することで、省エネルギーかつより少ない添加剤でコーティングフィルムの性能向上を果たしている。
今回の微細加工プロセスを大幅に省エネルギー化する手法は、これまで半導体産業など、高機能・高付加価値の材料(高価な材料)に限定されていたナノテクノロジーを、包装、コーティング材料など、より生活に身近な量産製品に利用できる道を開いたと言える。また、スプレー塗布コーティングという簡単な工程で、特に透明性などの外観を維持したまま、さまざまな材料のガスバリア性能を向上させることを可能とし、食品や医薬品の包装材、自動車燃料タンクのコーティング、有機ELや太陽電池などへの応用が大いに期待されると説明している。