生物の種はどのように生まれてくるのか。その生物多様性の謎に迫る研究がまとまった。海にすむ小魚のイトヨでは、オスかメスかを決める性染色体の変異が種を分化させる一因になっていることを、国立遺伝学研究所の吉田恒太(よしだ こうた)研究員と北野潤(きたの じゅん)特任准教授らが性染色体の遺伝子解析で確かめた。基礎生物学研究所、東北大学生命科学研究科、米フレッドハッチンソンがん研究所、岐阜経済大学との共同研究で、3月13日の米オンライン科学誌プロスジェネティックスに発表した。
体長5~7センチのイトヨは200万年前以降に多様化したトゲウオ科の仲間で、種分化や生物多様性を研究するモデル動物として注目されている。日本列島の太平洋側に生息するイトヨと日本海にすむイトヨは近縁だが、種として異なり、性染色体が違う。この事実は、研究グループがこれまでに突き止めていた。ヒトと同じように、メスがXX、オスがXYの太平洋イトヨに対して、日本海イトヨには、ネオ性染色体が加わって性染色体の数が増えていた。今回は、これらの性染色体の塩基配列を解析し、比較した。
日本海イトヨに固有なネオ性染色体は、XとYで塩基配列の分化が起こり始めていた。また、日本海イトヨのネオX染色体を太平洋イトヨで相当する染色体の領域と比較すると、種の間の違いをうかがわせる遺伝子変異が蓄積していることも見いだした。太平洋イトヨと日本海イトヨでは、求愛行動が異なっていて交配できず、種として明らかに分化している。この種分化は「ネオ性染色体の進化が原動力になっている」と研究グループはみている。
北野潤さんは「魚類やは虫類では、性染色体が変異することで種の分化がよく起きている。性染色体が種の違いを生み出して、生物多様性を促進しているのではないか。性染色体の転換は生物の進化に重要な意味があるだろう」と話している。