NTTは3月17日、光格子中に束縛された約100万個の原子に対して量子コンピュータのリソースとなる大規模な量子もつれ状態を高精度かつ高速に生成する手法を確立したと発表した。
同成果は、NTT物性科学基礎研究所およびNTTセキュアプラットフォーム研究所の研究者たちによるもので、詳細は米国の科学誌「Physical Review Letters」電子版に掲載された。
量子コンピュータの実現に向けた最大の課題は量子ビットの数をいかに増やしていくか、ならびにエラーをどうやって低減していくか、という点にあるが、これらの課題の解決に向けた方法として光格子の応用が注目されている。
光格子は光の波長(<1μm)程度の間隔に周期的に1個ずつの原子を閉じ込めることが可能であり、均一で理想的な量子ビットとなる原子を他の物理系に比べてコンパクトに大量に集積化できる技術として期待されている。
実際に同技術を用いた光格子時計などの実証済応用技術があり、そうした大量の量子ビット間に特定の大規模量子もつれ状態を作成することができれば、あとは、量子ゲートに比べて容易な処理となる個別の原子測定を行うことで、測定型の量子計算が実現できると考えられてきた。
しかし、光格子中の原子は集積性や均一性が優れている一方、人為的な制御性が困難な面があり、量子計算に求められるような大規模量子もつれ状態を高精度かつ高速に作る方法はこれまで明らかにされていなかった。
そこで今回、研究グループは、これまでの研究で培った、冷却原子の研究技術・量子情報処理の研究技術の強みをコラボレーションした研究を進めることで、量子コンピュータの計算リソースとして用いることが可能な、従来の課題であった精度とエラーのトレードオフを解決した、大規模な量子もつれ状態を光格子中に束縛された原子に対して高精度(理想的なもつれ生成に対して99%以上の一致度合い)かつ高速(~1ms)に作る手法を確立したという。
具体的には、1辺100μm以下の3次元空間に、約100万個の原子を閉じ込めることが可能な光格子を作成し、その原子1つひとつを量子ビットとして用いることで高い集積度を実現。また、量子ビットのもつれの生成の際に、なんらかの接触が生じ、その際に望まないエラーが生じてしまうという課題に対し、量子ビット間を仲介する物理的状態を1つだけに絞り、かつこれを補助状態として有効活用する手法として、振動同期法により精度と速度のトレードオフを解消し、さらに対制御法によりクロストークが起きないよう並列に量子もつれを生成し、エラー除去法を加えることで、エラーを欠損に転化し、高いエラー耐性を実現したとする。
この技術について研究グループは、レーザー光(やマイクロ波など)の照射やその強度の調整など、確立されている技術を組み合わせて容易に実装できるシンプルなものと説明するほか、現状のサイズ限界(約100万個)は原子の束縛技術に依存しており、今後さらに大量の原子が束縛可能になれば同じように適用することができるとも説明している。
さらに研究グループでは、これらの生成方式について、第一原理的なモデル化と厳密な数値計算によって性能を確認したとのことで、光格子中に束縛された冷却原子系はクリーンで理想的な物理系のため理論数値計算との整合性が高くなることから、実験でも忠実に実現できることが期待できるとしている。
なお、研究グループでは今後、今回開発した手法による大規模量子もつれ生成の実証実験を行うべく、具体的な実験装置や実施条件などの検討を進めるとするほか、原子の個別測定に対応していくとともに、3次元に比べて比較的に個別測定が容易な2次元光格子を生成し、今後5年以内に1万ビット程度の測定型量子コンピュータが実現できるよう研究開発を進め、その後、3次元光格子・100万ビット程度への大規模化を目指すとしている。