京都大学は1月16日、同大学の医学部附属病院に通院しているリウマチ患者のデータベース「KURAMA(Kyoto University Rheumatoid Arthritis Management Alliance)コホート」と、気象庁がホームページにて公開している気象統計情報(気圧、気温、湿度)との相関を統計学的に解析し、同患者の関節の腫れや痛みの指標と、気象データの内の「気圧」との間に、負の相関が見られる(気圧が低いほど、関節の腫れや痛みの指標が悪化する)ことを見出したと発表した。
成果は、京大 医学研究科附属 ゲノム医学センターの寺尾知可史 特定助教、同・病院 リウマチセンターの橋本求 特定助教らの共同研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、米国東部時間1月15日付けで米オンライン科学誌「PLoS ONE」に掲載された。
関節リウマチとは、体のあちこちの関節に炎症が起こって腫れて痛む病気だ。女性に多く、全人口の約1%が罹患し、日本全国でも70万人の患者がいるとされる(毎年1万5000人が新たに発病しているという)。進行すると関節が変形し使えなくなってしまうため、患者の日常生活に重大な支障を来してしまい、QOLが大きく下がってしまう厄介な病気である。
その原因はまだ十分には解明されていないが、本来は自分の体を病原体などから守るためのシステムである免疫系に異常があるというのが、現在の見解だ。自分の体の一部にも関わらず、免疫系が関節を外敵と間違って攻撃してしまうことが原因とされている。
ただし、近年になってその原因として、腫瘍壊死因子「TNF-α(Tumor necrosis factor-α)」という炎症を引き起こす物質が関わっていることが同定されたことから、治療法が大きく進展。TNF-αをターゲットとした治療薬(生物学的製剤)がすでに利用されており、治療成績が目覚ましく進歩してきている。
ちなみにその関節リウマチ患者の間では、昔から「天気が悪くなるとリウマチが悪化する」とか「リウマチの痛みが悪化することで、これから天気が悪くなるのがわかる」という実感があることは、よく知られていた。しかし、これが単なる個々人の実感だけなのか、統計学的に見た時にそのような相関が事実として見られるのかどうかということはこれまでに研究されたことがなく、実はよくわかっていなかった。
そこで研究チームは今回、KURAMAコホートに登録されている関節リウマチ患者の臨床データと、気象庁ホームページにて公開されている気象データとの相関を解析することにしたのである。評価回数の多い患者を抜き出して、同一患者における関節症状の各要素と、気象における各要素との相関が調べられた。
その結果、以下の4点がわかった。(1)リウマチ患者の関節の腫れや痛みの指標と、気象データの内の「気圧」とは統計学的に負に相関する(気圧が低いほど、関節リウマチの腫れや痛みの指標が悪化する)。(2)「湿度」も相関するが、「気圧」は「湿度」「気温」の影響を加味しても相関する。「気温」との間には相関が見られなかったという。(3)リウマチの評価日から見て、3日前の「気圧」が最もよく相関する。(4)血液検査の炎症を表す数値との間には、相関が見られない、ということだ。この結果は、リウマチ患者の実感ともよく合致するものだという。
これらの結果により、リウマチ患者が実際に感じている「天気が悪くなるとリウマチが悪化する」が、統計学的にも事実であることを明らかになったというわけだ。そして、「天気が悪化する」ことでリウマチの症状の悪化に関係する気象の要素として、「気圧」が重要であることが明らかにされた形だ。
ただし、「気圧」と関節リウマチ症状との間における統計学的相関の原因についてはまだわかっていないという。血液の炎症を表す数値との相関が見られなかったことから、リウマチの病気の進行を大きく左右することはないだろうと見られているが、ともかくリウマチ患者が実感していることに、実際に統計学的な意味があったことがわかったのは、ユニークな成果といえるだろう。