海洋研究開発機構(JAMSTEC)は1月8日、東京大学地震研究所との共同研究により、2010年2月のチリ地震に伴い発生した津波を、深海底に設置された「海底電位磁力計(OBEM)」からなる電磁場観測網でとらえることに成功し、津波に関する誘導電磁場理論を立証したと発表した。
成果は、JAMSTECの杉岡裕子主任研究員らの共同研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、日本時間1月8日付けで英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
電気を通す物体(導体)を磁場中で動かすと、電磁誘導によって導体の中に電流が流れ、さらにその電流によって、導体の周りに二次的な磁場が生じるが、海水でもそれが起きる。海水も電気を通す性質があるため、地球の磁場中で海水が動くと電磁誘導現象が起き、二次的な磁場が生じる。それを「海洋ダイナモ効果」というわけだ。
画像1が、海洋ダイナモ効果の原理をまとめた模式図である。磁場中を導体が動く時に導体中に電気が流れ、二次的な磁場が発生するというもの(左図)。地球では、左図の磁場は地球磁場、導体は海水に対応する。
津波のように海水が大きく動く時があれば、同様の現象が起きるはずであり、この二次的な磁場をとらえることで津波の情報を検出することが可能になる。この理論を用いれば、津波の大きさや速さ、到来方向などを知ることができるなど多くの利点があるというわけだ。この研究は意外と古く、1950年代から多くの研究者の関心を集めており、理論的な研究が進められてきた。しかし、太陽活動に伴う磁場変動と比較して津波による変動は小さく、検出は技術的に困難なことから、海域における観測例はこれまでなかったというわけである。
研究チームでは、2000年から高精度・高分解能なOBEMを太平洋上の複数の海域に展開し、観測を実施中だ。ちなみにOBEMは本来、地球内部の構造を調べるために海底での電流や磁場を観測することを目的に設置したものだが、その高精度データを活用し、2006年の千島地震において津波による電磁場変動の検出に世界で初めて成功した。その後も、2009年のサモア地震、2010年のチリ地震時においても津波による電磁場変動の検出に成功している(画像2)。
2010年チリ地震津波発生時には、震源から7000kmほど離れたタヒチ島周辺の海底電磁場アレイ観測(特定域における)網で捕捉し(画像3)、津波伝播過程を明らかにした。また、同地点における、微差圧計(高精度な水圧計)で同時に観測された水圧記録と比較することにより、観測データが正確に津波の情報をとらえていることが確認され、津波による誘導電磁場理論が遂に立証されたというわけだ(画像4)。
二次的な磁場をとらえれば、津波の大きさや速さ、到来方向などを検出できることを前述したが、今回の研究で用いられたOBEMのデータ高密度観測からも、実際に多様な津波の情報を検出することができるという。具体的には、磁場の大きさからは津波の大きさを、磁場が発生した時刻からは津波が観測点へ到達した時刻を検出することができる。また、磁場データから津波の到来方向を知ることもでき、これらは1点の観測から見積もることが可能だ。
以上のことから、世界中の海域のほとんどで、このOBEM用いれば、センチメートルオーダーからの津波の大きさと到来方位を検出することが可能であることがわかったという。そして、今回立証されたOBEMを用いた津波観測理論は、日本沿岸に到達する津波の大きさと到達時刻を早期かつ精度高く予測するという、将来の津波災害を軽減するための喫緊の課題に貢献できるものだとする。
JAMSTECでは、今回の成果を基にして、「ベクトル津波計」と命名された新しい海底津波観測装置の開発研究中だ(画像5~7)。これは、海底微差圧計とOBEMを組み合わせたもので、四国海盆において2012年11月から約3ヶ月間の試験観測が行われ、2013年2月6日のソロモン沖地震津波をとらえることに成功しており、その実効性を確認したという。今後はオンライン化を図り、海底地形などによって時々刻々変化する津波の到来方位や速度をリアルタイムでモニタリングできるよう研究を進めていくとしている。