アカウミガメ

同じ砂浜で産卵するアカウミガメでも、水深200m内の浅海でえさを取るウミガメの方が、外洋でえさを取るものよりも2.4倍も多く子ガメを産むことが、東京大学大気海洋研究所の畑瀬英男・元研究員とNPO法人「屋久島うみがめ館」(大牟田一美代表)らの27年間にわたる調査研究で分かった。こうした繁殖性の違いは遺伝的なものではなく、環境に応じて生活を変える能力をもつためと考えられるという。

同じ砂浜で産卵するウミガメには、浅海(200m以浅)でエビ・カニや貝などの底生生物を食べているウミガメと、それよりも深い外洋で浮遊生物を食べているウミガメが共存している現象が世界各地で発見されつつあるが、それがどのような理由によるかは不明だった。

研究グループは、鹿児島県屋久島の永田浜で1985年から2011年まで調査したアカウミガメの繁殖データを基に、浅海あるいは外洋でえさを取る母ガメの産む子ガメの数を調べた。浅海か外洋かについては、母ガメに電波発信器を取り付けて、人工衛星で回遊経路を追跡したほか、えさの炭素・酸素の割合(安定同位体比)がそのまま卵黄にも反映することから、99年と08年、11年の計362匹が産んだ卵黄を分析し、区別した。

〈上の図〉人工衛星で追跡されたアカウミガメの産卵期以後の回遊経路
〈下の表〉浅海でえさを取るウミガメ・外洋でえさを取るウミガメの生活史特性の比較
(提供:東京大学大気海洋研究所)

その結果、永田浜で産卵する母ガメの8割が浅海、2割が外洋でえさを食べていると推定された。浅海のウミガメに比べて、外洋のウミガメは1腹卵数、1産卵期内の産卵頻度、および繁殖頻度が少なく、浜に戻って来る回帰間隔は長かった。巣からうまく脱出した幼体総数で定義される「累積繁殖出力」(=1腹卵数×巣からの脱出成功率×1産卵期内の産卵頻度×繁殖頻度)は、浅海のウミガメの方が外洋のウミガメよりも2.4倍高かった。

また、浅海と外洋のウミガメの間では、特徴的なDNA反復配列やミトコンドリアDNAなどに遺伝的な差異がなかったことから、海での生活の違いは環境対応による。こうした能力をもつことで、ウミガメ類は1億年を超える進化史を生き残ってこられたとも考えられるという。