東北大学は11月18日、小児の縦断追跡データを用いて、テレビ視聴習慣が数年後の言語機能や脳形態の変化とどう関連しているかについて解析を行った結果、長時間のテレビ視聴が、脳の前頭極をはじめとした高次認知機能領域の発達性変化や言語性知能に悪影響を与えていることを明らかにしたと発表した。
同成果は、同大加齢医学研究所・認知機能発達(公文教育研究会)寄附研究部門の川島隆太 教授、竹内光 准教授らによるもの。詳細は、英国神経科学雑誌「Cerebral Cortex」に掲載された。
これまでの多くの研究から、乳幼児や小児におけるテレビ視聴が、認知機能、とくに言語機能、行動、学業成績といった指標を長期的に低下させることが報告されてきており、そうした研究では、健常の小児が発達の中期以降に神経回路の刈込みと呼ばれる現象が背景にあると考えられる灰白質量の減少を示すこと、脳の前頭極とよばれる領域をはじめとした高次認知関連領域形態が知能と関連すること、高い知能が発達におけるそれらの領域、とくに発達における灰白量の減少をよく示す前頭極領域のより急峻な灰白質の減少などと関連することなどが示されてきた。しかし、これらの高次認知機能と関連する領域の発達に、生活習慣がどのような影響を与えるのかは明らかにされてこなかった。
そこで今回、研究グループでは、そうした課題の解明に向け、健常小児において、テレビ視聴の生活習慣が脳形態や言語機能に与える影響を解明することを目的に研究を行ったという。
具体的には、一般募集による悪性腫瘍や意識喪失を伴う外傷経験の既往歴のない健康な小児(5歳~18歳、平均11歳)を対象に、最初にテレビ視聴を含む生活習慣などについて質問に答えてもらった後、知能検査をうけ、MRI撮像を受けてもらい、その3年後に、研究参加者の一部に再び知能検査とMRI撮像を受けてもらい、そのデータ比較を行った。
最初に276名の初回参加時のデータを解析し、テレビ視聴時間と言語性知能、動作性知能、総知能、脳の局所の灰白質量、白質量の関連を解析した後、216名の初回参加時と2回目参加時のデータを解析し、初回参加時におけるテレビ視聴時間が、どのように各参加者の初回から2回目参加時の言語性知能、動作性知能、総知能、脳の局所の灰白質量、白質量の変化を予測していたかの解析を行った。また、これらの解析においては、性別、年齢、親の教育歴、収入といった種々の交絡因子を補正して行ったという。
解析の結果、初回参加時における長時間のテレビ視聴時間は、初回参加時から数年後の2回目参加時への言語性知能低下が予測されたほか、初回参加時における長時間のテレビ視聴時間は、初回参加時から数年後の2回目参加時への前頭極領域、運動感覚領域、視床下部周辺領域の発達性変化への負の影響(灰白質体積の減少が少ないこと)と関連していることが確認されたという。
また、言語性知能は、今回の同定された前頭極領域において、局所の灰白質量と負に相関していることも確認されたとする。
研究グループでは今回の成果を受け、テレビ視聴は我々の日常生活において大きな幅を占めるものになっているが、すでにテレビ視聴の乳幼児による悪影響はよく知られているところであり、今回の知見により発達期の小児の長時間のテレビ視聴には一層の注意が必要であることが示唆されたと考えられるとコメントしている。