京都大学(京大)は10月19日、細菌、藻類、キノコ・カビ類、植物、動物といった、ありとあらゆる地球上の生物の種名を、迅速かつ簡便に特定することを可能にする「DNAバーコーディング」の理論的枠組みを構築するとともに、DNA情報をもとに自動的に生物種名を特定するコンピュータ・プログラムの開発に成功したと発表した。

同成果は、同大の田辺晶史 地球環境学堂特定研究員(現 水産総合研究センター・中央水産研究所任期付研究員)、同 東樹宏和 人間・環境学研究科助教らによるもの。詳細は米科学誌「PLoS ONE」に掲載された。

ゲノム技術の進歩により、生物のDNAを簡単かつ大量に解読することができるようになりつつあり、DNAバーコーディングが野生生物の調査、有用な微生物の探索、病原性微生物の同定、食品表示の正当性検査など幅広い分野で、その応用が進んでいる。また、それに伴い、そうした研究対象の生物から得られたDNAをデータベース上の膨大な既知DNAと照合して同定を行う際、どの程度似ていればその種と判定するかが研究者によって異なることが問題になるようになってきたほか、DNAシーケンサーの高性能化による、一度に解読できるDNAの量が増加してきたことから、自動かつ高速にDNAバーコーディングを行えるシステムの実現が求められるようになってきていた。

また、生物は、上位から「界・門・綱・目・科・属・種」の7つの階層で分類されており、まだ人類が発見していない未知の生物種のほとんどが、既知の網や目に属すると考えられており、そうした未知の生物種がどの網や目に属するのかを判定するためには、無数の似通ったDNAを持つ大量の生物種のデータから同定する必要があったり、それぞれの種内にわずかながら存在するDNAの変異などを加味したDNAバーコーディング法の構築も求められていた。

今回の研究では、そうした同定作業における統一規準を作ることに成功したという。この統一規準を用いることで、種名を知りたい生物のDNAが、どの既知種の種内変異の中に収まるか探し出し、種名を特定することが可能となり、誰がどんな生物を同定しようとしても、客観的で正確な結果が得られるようになるという。

また、同規準に基づくDNAバーコーディング法を実際の生物調査や研究に応用するため、独自のコンピュータ・プログラムを作成。実際に、同プログラムの有効性を、答えのわかっているDNAを用いて検証したところ、細菌・古細菌、カビ・キノコ類、植物、動物といったありとあらゆる生物の同定において、正確な同定が可能になることが実証されたという。

さらに、同プログラムは、次世代シーケンサーにも対応しているため、自動化された処理で効率のよいDNAバーコーディングが可能になるとのことで、これにより広範な分野での応用が可能となり、例えば"池の中にどんな生物がいるのか"、"農地の土壌中にどのような微生物が生息しているのか"、"感染症の原因となっている微生物は何か"、"材料となっている農林水産物は何か"といった問題などにおいて威力を発揮することで、環境保護や農林水産業、医療、食品などの幅広い分野で活用が期待できるようになるとしている。

なお研究グループでは今後、自動DNAバーコーディングのプログラムをさらに使いやすくすることで、各種研究機関、企業、NPOによる利用を促進していく予定とするほか、精度をさらに上げていくためには、データベースへのDNA情報の蓄積を加速していく必要があるとしており、効率的なDNA情報整備戦略を提案していくことに加え、DNA情報を蓄積している研究機関や企業には、人類の共通財産である公共のデータベースへのDNA情報登録を促していきたいとコメントしている。

DNAバーコーディング」解析の流れ