普段から当たり前のように使っている人も多い「させていただきます」という言葉。敬語として正しいのか、ビジネスシーンで使ってもいいものなのか、迷ったことはありませんか? そこで今回は、「させていただきます」の意味と正しい使い方について解説します。

  • 「させていただきます」という言葉を正しく理解していますか?

「させていただきます」の意味とは

「させていただきます」という言葉は、「させてもらう」の謙譲表現(自分の言動をへりくだって言うことで相手を立てる表現)で、自分側が行うことに対して、相手側あるいは第三者から許可をもらい、そのことで恩恵を受ける気持ちや事実がある場合に用いられる言葉です。

「させていただきます」が謙譲語という丁寧な表現であることから、何にでも「させていただきます」をつける人が増えているようですが、文化庁の敬語の指針によると、「相手側の許可を受けての行動」であることと、「そのことで恩恵を受けるという事実や気持ちのある場合」の両方がそろったときに使用するのが適切とされています。つまり、一方が欠けている状況で用いるのは不適切なのです。

たとえば、お客様から身分証明書を提示していただき、「こちら、コピーを取らせていただきます」というのは、許可と恩恵を伴った適切な使い方といえますが、上司に「誰かコピーお願い」と頼まれて、「はい、私がコピーを取らせていただきます」というのは不適切です。

「させていただきます」の正しい使い方・誤った使い方

では、どのような使い方が正しいのでしょうか。「させていただきます」の正しい使い方・誤った使い方について、具体的に見ていきましょう。

許可と恩恵が伴うこと

まず注意したいのは、先にも述べたとおり、「相手側の許可」と「恩恵を受ける」という2つの条件がそろったときにのみ使用することができるという点です。そのため、相手の「許可を得ていない場合」や「許可を得る必要がない場合」、「恩恵を受けていない場合」に用いるのは不適切です。

たとえば、許可も得ずに、「明日、休ませていただきます」「納期を延期させていただきます」と、一方的に切り出されたらどうでしょうか。謙譲語を用いることで、一見低姿勢であるような言い回しですが、本人の中では、すでに「休む」「延期する」ことが決定しているようなニュアンスが感じられます。

また、「コピー取ってくれる?」「修理をお願いします」など、何かしらの依頼を受けたことに対して「させていただきます」というのも不自然です。そもそも相手からの依頼に対して許可を得る必要はありません。

さらに、「ドアを開けさせていただきます」「私が支払わせていただきます」など、自分が恩恵を受けないことに対して用いると、「私がやってあげますよ」とアピールしているように受け取られてしまう可能性も。

いずれにせよ、許可と恩恵が伴わない状況で使用すると、相手を不快な気持ちにさせてしまったり、誤解を招いたりすることになりかねません。状況に応じて正しく使用するよう心がけましょう。

「さ入れ言葉」に注意

みなさんは、「さ入れ言葉」という誤用をご存知でしょうか。本来「せていただく」であるべきところに、丁寧に表現しようとし過ぎて、【さ】を挿しこんで「させていただきます」という形で使用してしまうことを指します。「さ付き言葉」ともいいます。

  • 歌わさせていただきます。
  • 帰らさせていただきます。

いかがでしょうか。何とも違和感があるというか、「くどい」印象を受けます。本来であれば、「歌わせていただきます」「帰らせていただきます」が正解です。特に、「せて」の前の語(歌わせての場合は【わ】)が母音の「あ行」の場合に「さ入れ言葉」による誤用が生じやすいようです。

「二重敬語」に注意

「させていただきます」は「させてもらう」の謙譲表現なのですが、敬語としては「誤り」とする見解があります。それは、二重敬語という誤った使い方をしている人が多いからです。二重敬語とは、同じ種類の敬語を重ねて使った敬語表現のことを指します。

たとえば、契約書の内容を確認する際に、「書類を確認させていただきます」と使用しても、何ら問題はありませんが、「書類を拝見させていただきます」は誤りです。

「拝見する」という言葉自体が「見る」の謙譲語であるため、「させていただきます」と組み合わせると二重敬語になってしまうからです。

ちなみに、「書類を拝見いたします」も二重敬語です。「いたす」は「する」の謙譲語になるため、「書類を拝見します」が正しい敬語となります。

丁寧にと思えば思うほど陥ってしまいがちな二重敬語。せっかく相手に敬意を払おうと用いた敬語で自身の評価を下げてしまうことのないよう、気を付けましょう。

「させていただきます」の漢字は「させて頂きます」?

「さ入れ言葉」や「二重敬語」は、丁寧に対応しようとするあまりに敬語を使い過ぎてしまうケースでしたが、なるべく漢字を用いようとして失敗するケースもあります。それが、「頂きます」という漢字表現です。

「させていただきます」を「させて頂きます」と表記するのは誤りです。「頂く」という言葉には様々な意味がありますが、基本的に「何かを頂戴する(もらう)」場合に「頂く」という漢字を用います。

「させていただきます」の「いただく」は頂戴するという意味ではなく、単に、自分の行動に肯定の意味を添えるためだけの言い回しにすぎませんので、「いただきます」とひらがなで表記するのが正解です。

  • お土産を頂いた。
  • 社長賞を頂きました。
  • 直帰させていただきます。
  • 報告させていただきます。

「させていただきます」と「いたします」の違い

許可と恩恵が伴う場合に用いるのが「させていただきます」ですが、そうでない場合には、シンプルに「いたします」を用いた方がいい場合もあります。「させていただきます」は「させてもらう」の謙譲語、「いたします」は「する」の謙譲語です。

両者の違いを比べてみると、「させていただきます」は誰かの許可を得て行動するのに対し、「いたします」は自らの意志で行動するニュアンスが感じられます。

  • 私から説明させていただきます。
  • 私が説明いたします。
  • 弊社で弁償させていただきます。
  • 弊社で弁償いたします。

また、相手が求めていることに応じる場合には、「いたします」の方を使用します。たとえば、お店で「○○はどこにありますか?」と尋ねた際に、「売り場まで案内させていただきます」と「売り場まで案内いたします」とでは、どう違うでしょうか。

「案内させていただきます」の方が「案内して差し上げますよ」というニュアンスが含まれているように感じられ、「忙しいのに案内させちゃって申し訳ない」と思う人もいるのではないでしょうか。シンプルに「売り場まで案内いたします」という方が、お客様の負担にもなりませんし、何よりスマートですね。

「させていただきます」を使用するべきなのか、「いたします」なのか。それぞれの使用条件やその時の状況に応じて、正しく使い分けましょう。

「させていただきます」の英語表現

「させていただきます」という言葉を英語で表現するには、「~したい」「~するつもりだ」「~する準備がある」など、「させていただきます」に近いニュアンスで考えてみると良いでしょう。どのような表現が考えられるのか、例文とともにみていきましょう。

意志を示す「will」を用いて

・I will guide you.
私が案内させていただきます。

・We will be happy to assist you.
私たちが喜んでお手伝いさせていただきます。

許すという意味の「allow」を用いて

allow me to do~で「~させてください」という許可を求める表現になります。

・Allow me to explain.
説明させていただきます。

・Please allow me to accompany.
同行させていただきます。

be ready to ~で「準備ができている」という意味に
・We are ready to offer you a 30% discount.
30%の値引きをさせていただきます。

let me ~で「私に〜させて」という意味に
・Please let me to introduce myself.
自己紹介をさせていただきます。


「させていただきます」は、「相手の許可」と「恩恵を受ける」気持ちが伴っていれば使って問題のない敬語表現ですが、さ入れ言葉や二重敬語など、使い方には注意が必要です。相手に敬意の気持ちがしっかりと伝わるよう、正しい敬語で表現しましょう。