九州大学(九大)、熊本大学、海洋研究開発機構(JAMSTEC)は9月16日、岐阜県坂祝町および大分県津久見市から採取された岩石試料について、白金族元素の1つである原子番号76番の「オスミウム(Os)」の同位体分析を行った結果、およそ2億1500万年前に、直径3.3~7.8kmの巨大隕石が地球に衝突した強固な証拠であることを発見したと共同で発表した。

成果は、九大大学院理学府 地球惑星科学部門の博士課程2年佐藤峰南氏、熊本大大学院 自然科学研究科の尾上哲治 准教授、JAMSTEC 地球内部ダイナミクス領域(IFREE)の野崎達生 研究員らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、日本時間9月16日付けで英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。

今から約2億~2億3700万年前の三畳紀後期(三畳紀は前・中・後の3世に細分される)は、最古のほ乳類化石が発見された時代として知られる。また、それまで陸上生態系で主要な位置を占めていたほ乳類型爬虫類が絶滅し、代わりに恐竜が進化発展したことが挙げられることも特徴の1つだ。そして、生物の大量絶滅イベントが繰り返し起こった時代としても有名である。

この絶滅イベントの原因は、6500万年前の「白亜紀/古第三紀境界」に恐竜が滅ぶきっかけとなった理由とされるのと同様に隕石衝突の可能性が指摘されてきたが、これまで確かな証拠はみつかっていなかった。2012年、岐阜県坂祝町の木曽川沿いに露出するチャートと呼ばれる岩石に挟まれた粘土岩から、三畳紀後期に隕石が落下した証拠が世界ではじめて発見された(画像1:記事はこちら)。同時期に形成された巨大なクレーターとしては、カナダ・ケベック州の直径100kmのマニクアガンクレーターがあり、粘度岩から発見された証拠はこのクレーター由来する可能性があるとされている。しかしその確実な証拠はなく、また落下した隕石が地球環境に大きな変動をもたらすほどの巨大な隕石であったかどうかもわかっていなかった。

画像1。隕石衝突によって形成された球状粒子(スフェルール)を含む岐阜県坂祝町の粘土岩の薄片写真

研究チームは、岐阜県坂祝町および大分県津久見市から発見された隕石衝突を記録した粘土岩(画像2~4)について、Osの同位体の化学分析を実施。Osは、質量184、186、187、188、189、190、192の7つの同位体(原子番号は同じ、つまり陽子の数は同じだが、中性子数が異なるために質量が異なる)を持っており、親鉄性元素であることから、地球の中心核やマントルには豊富に存在するが、大陸地殻においては非常に少ないのが特徴で、貴金属である。地球に落下する大部分の隕石が、高いオスミウム濃度と低いオスミウム同位体比(オスミウム188に対するオスミウム187の比:187Os/188Os)を持つことが知られている。

画像2(左):巨大隕石衝突によって形成された粘土岩が発見された地域。画像3(中)・画像4(右):オスミウムの同位体分析により隕石衝突が証明された粘土岩の写真(画像4(b)は画像3(a)の粘土岩の近接写真)。画像中の番号はオスミウム同位体分析に用いたサンプル番号。岐阜県坂祝町で採取されたもの

今回の研究では、JAMSTEC IFREEに設置されている「マルチコレクター誘導結合プラズマ質量分析装置(MC-ICP-MS)」を用いた分析により、隕石に特有の高いオスミウム濃度と低いオスミウム同位体比を三畳紀後期の粘土岩から発見した(画像5)。マルチコレクター誘導結合プラズマ質量分析とは、高温のプラズマによりイオン化された試料中の元素を複数の質量分析部で検出し、ある元素の存在量や同位体比を決定できる装置のことだ。

この結果は、巨大隕石の衝突により蒸発した隕石由来の大量のオスミウムが海洋に供給され、最終的に深海底の堆積物中に固定されたことを意味するという。さらに今回の研究では、当時の海洋に供給された隕石由来のオスミウム量を見積もることで、衝突した隕石の大きさを推定することにも成功した。計算の結果、衝突した隕石は直径3.3~7.8kmと、巨大なサイズであったことが明らかになった。

画像5。オスミウム濃度とオスミウム同位体比の垂直変化。岐阜県坂祝町の粘度岩のもの

2013年2月15日にロシア南部のウラル地域に隕石が落下したのは誰もが知る衝撃的な出来事だったが、この時の隕石は直径が約17m、重さは1万トンという推定だ。今回の研究結果から、三畳紀後期に落下した隕石は最大で直径約8km、重さ5000億tと推定され、ロシアの隕石とは桁違いの巨大隕石が、過去の地球上に落下したことがわかる。ウラルの隕石ですらあれだけの破壊規模をもたらしたことから、三畳紀後期の隕石がどれだけの破壊をもたらすか想像に難くない。

三畳紀後期の隕石のサイズは、地球の歴史においては、現在わかっているところで、冒頭でも触れた恐竜の絶滅の大きな理由とされる隕石(直径6.6~14kmと推定)に次ぐ巨大なサイズと見られ、全球的な環境変動を引き起こすには十分な大きさだと考えられるという。

研究チームは今後、隕石衝突により引き起こされた環境変動について詳細な研究を進める予定としている。また、隕石衝突が当時の海洋生態系に大きな変化をもたらした可能性も、チャートに含まれる化石記録から明らかになりつつある。化石記録という古生物学的視点も合わせて、巨大隕石の衝突が生物に与えた影響に関する研究も発展させていく予定とした。