安川電機は9月9日、脳卒中などによる歩行障害に対する歩容改善および歩行能力の回復を目的とした「足首アシスト歩行装置」(画像1・2)と、ベッドサイド型化し運動療法装置「TEM LX2 TypeD」をリニューアルした「下肢用リハビリテーションロボット」(画像3)の2種類の福祉・医療用ロボットを発表した。
安川電機は創立100周年に向けた「2015年ビジョン」実現のための最終ステップとして、新中期経営計画「Realize100」(2013年度~2015年度)を4月18日に発表し、新規事業の創出・コア事業化の実現に向けて、ロボティクスヒューマンアシスト事業領域では、医療・福祉分野における脳血管障害などに対するリハビリ機器適用の取組を進めている最中だ。その主要な柱の1つが、足首アシスト歩行装置である。
足首アシスト歩行装置は、芝浦工業大学の田中英一郎准教授、広島大学の弓削類教授、株式会社スペース・バイオ・ラボラトリーズの河原裕美代表らが歩行時の足首アシスト歩行装置の研究を長年行ってきたものに対し、安川電機のモーションコントロール技術・ロボット技術を応用して製品化したものだ。
日本では年間約30万人が脳卒中を発症しており、総患者数は300万人と推定されている。多くの患者には片麻痺などの歩行障害が残り、正常な歩行(歩容)ができず、ADL(日常生活動作)の低下を招いてしまっている状態だ。特に、歩行時の足首の底屈・背屈(画像4の1および3の動作)が十分にできない場合には転倒の危険性が高くなるため、従来のリハビリでは安全性を重視して、つま先が引っ掛らない角度に足首を固定した装具を装着して歩行リハビリを行うのが一般的だった。また、療法士の口頭指示だけで患者自身が歩行時の足首の動かし方やそのタイミングを理解・習得することは難しく、正しい歩行ができなかった。こうした背景から共同研究が行われ、今回の製品化に至ったというわけだ。
足首アシスト歩行装置は、両足裏のセンサの情報を基に足首の底背屈動作をモータでアシストすることで、踵から接地させ(画像4の1)、接地中には重心の前方移動を促すようにし(画像4の2)、足が地面から離れる時には蹴り出しの力になる(画像4の3)。振出し時には、背屈アシストにより腓腹(ひふく)筋、いわゆるふくらはぎの筋肉(2つの関節をまたぐ2関節筋の1つ)を伸張させ、反射的に筋収縮が起きることでヒザ・股関節の動きを連動させ、スムーズな振り出しができる(画像4の4および5)。
また装置構成が簡易で、装着・設定・調整に多くの時間を要しないことも特徴の1つだ。小型・密着型なので服の中に装着でき、患者の動きを妨げることなく歩行リハビリも可能である。さらに足首部を軽量化して患者負担を小さくするために、足首駆動部分とコントローラを分離して、小型扁平モータで直接足首を駆動する仕組みを採用している。
足首アシスト歩行装置は今後、実用化・普及に向け、臨床研究を継続して治療効果を示すエビデンス(臨床結果)を収集すると共に、改良を重ね2015年に製品化する予定だ。なお、2013年9月18日から20日まで東京ビッグサイト(東京国際展示場)で開催の国際福祉機器展(H.C.R.2013)に参考出品予定としている。
そしてもう1つの下肢用リハビリテーションロボットは、超高齢社会の到来による医療・福祉現場での介助者不足のため、ロボット技術を応用した装置の活用が国策として期待されていることから、そうしたニーズに応えるため、同社が九州大学との共同開発で2005年3月に発表した装置をリニューアルして再投入する形だ。
下肢用リハビリテーションロボットの活用により、リハビリの量や質の安定化、介助者の負担軽減や要介護者の自立支援に貢献するとしている。また、同ロボットをきっかけにして、安川電機は今後、リハビリ・福祉機器市場に向け、同社製ロボットおよびモーションコントロール技術を活かしたヒューマンアシスト製品を開発し、市場創出を図っていくとした。
下肢用リハビリテーションロボット(画像3)の特徴は、1つ目が、理学療法士などのリハビリ専門家が使用する治療用の下肢運動パターンを内蔵しており、患者の脚部の長さに応じて下肢3大関節(股、ヒザ、足首)の共同操作制御が可能で、適正なリハビリテーションを行える点だ(画像5)。
そして、その運動パターンに関して、スピードや可動範囲の可変、繰り返しといったことも装置なので簡単。関節可動範囲での正確な繰り返し動作と任意の稼働時間の設定が可能だ。また本体はベッドサイド形をしており、全方位移動キャスタ付きで、ベッド間や病室間の移動が簡単なことも特徴の1つ。大型タッチパネルで操作が簡単なこと、患者情報を記録できて次回治療時に再利用が可能なことなども挙げられる。
足首アシスト歩行装置と同様に、下肢用リハビリテーションロボットも国際福祉機器展に参考出展の予定だ。