佐世保名物「レモンステーキ」ってどんなステーキ?

「レモンステーキ」というものをご存知だろうか。長崎県佐世保発祥のご当地グルメで、大概の九州人なら「あ~あれね」と反応してくれるだろう。そしてご当地・長崎には、ちょっぴり変わった食べ方もあるんだとか。味わいどころとともに調査してみることにした。

アメリカ風ステーキとは一線を画す

レモンステーキを扱うレストランを探して市内を歩くと、佐世保市内にいくつも見つかる。どの店のものも見た目は似ている。オーダーすると、運ばれてくるのはジュージューの鉄板にのった赤々としたレアの肉。カッティングは薄め。そう。ボリュームたっぷり厚みのあるアメリカ風ステーキではないのだ。

ポイントは当然レモン。肉の上に輪切りの新鮮なレモンが盛りつけられて、軽やか、爽やかな印象だ。最初に肉だけを口に運んでみると、レモンの風味と醤油ベースのソースが上品でライトな食感。アツアツのご飯の上に肉と野菜を載せて、丼風にするのも美味である。

新鮮なレモンと野菜が盛られている。爽やかで軽やかな第一印象だ

ちなみに、佐世保っ子のテレビ局ディレクターT氏によると、肉を食べた後が面白いのだという。というのも、ソースと肉汁だけが残った鉄板の上に白ごはんを投入し、「混ぜて食べる」ことをオススメする店があるのだとか。

ステーキ完食後の、おじやならぬソースまぜご飯か!? これが(見た目と違って)すごくおいしいのだという。このスタイルを堂々と一押ししている店舗がある。その名も「時代屋」だ。

最後に鉄板のなかに白ご飯を投入して、混ぜて食べるスタイルって!?

実はこの「時代屋」、昭和30年代にレモンステーキを開発した東島兄弟の弟さん、東島洋さんが創業オーナーシェフを務めていた。それにしても考案した兄弟って? レモンステーキはライト兄弟のように特定の兄弟が開発したものなの? 答えはイエスだ!

そもそもが、佐世保市にある洋食の名店「れすとらん門」で修行中であった東島チーフシェフと彼の弟さんである洋さんの2人が、店のオーナーより「夏場でも売れるステーキメニューを考えてみてよ」と命じられたことに始まる。そして、試行錯誤を経て開発したのが、このレモンステーキなのだ。

今回取材に応じてくれたのは、「時代屋」の東島寿明さん。レモンステーキの生みの親である洋さんは、彼のお父様とのこと。

「当時のぶ厚くこってりとしたステーキだと、夏場の売り上げがイマイチだったと聞いています。暑い盛りにも人々が喜んで食べてくれるようなステーキ商品を開発したいという思いから生まれたのが、このレモンステーキだったようです」。

佐世保市吉福町の「時代屋」。レモンステーキの元祖と呼ばれる店だ

デビューと同時にレモンステーキの魅力は、地域の人々によってジワジワと口コミで広がり、次第に評判となっていく。東島洋さんは昭和61年(1986)に独立して、「時代屋」をオープンした。兄弟お2人の母体であった「レストラン門」の弟子たちも、それぞれに独立してレモンステーキを提供し始めたそうだ。

つまり、弟子たちの独立とともにレモンステーキは一挙に拡散! 佐世保の名物に数えられるほどに急成長していったのだ。今も元祖の味を伝える「時代屋」ではスープ、ライス、サラダつきで1,300円という価格で展開をしている。他店に比べて安価であるこのプライスも「時代屋」人気の理由のひとつだ。

「時代屋」のレモンステーキはスープ、ライス、サラダ付きで1,300円

肝心のレモンステーキの最後の食べ方。ぶっかけご飯ならぬ、鉄板に白ご飯を投入してソースと混ぜて食べるスタイルについて、「普通の洋食じゃあ、これはやっちゃいけないというか、あまりキレイな食べ方じゃないですよね?」そう筆者がつっこむと、寿明さんは笑顔でこう答えてくれた。

「アハハ。そうです。普通きちんとした洋食屋だったらオススメしない食べ方ですよね! でもそこが時代屋流です。肉のうまみ、ソースのうまみを最後までお客様には楽しんでほしい。ナイフフォークで礼儀正しくという食べ方もいいですが、日本人らしくお箸を使って真っ白いごはんをドカッと乗せて最後にフィニッシュ! そう食べ終えるのも、満腹感があっていいんじゃないかと」。

「ほんとおいしいんですよ、だからメニューにもオススメのスタイルって載せているのです」と、寿明さんはほほえむ。“日本人のお客さんに喜んでもらいたい”、そんな洋食屋シェフ兄弟の願いから生まれ、次々に新しい要素を取り込んで、佐世保のレモンステーキは進化しているのである。

●information
下町の洋食 時代屋
佐世保市 吉福町172-1

また、現在、佐世保エリアでは数多くの洋食屋がレモンステーキを筆頭メニューに挙げている。なかでも地元で人気の店舗を最後に2つ、紹介したい。

「れすとらん 門」のレモンステーキはランチセットで2,835円

まずは「れすとらん 門」。昭和30年(1955)に創業した佐世保を代表する洋食の名門店であり、昔も今も変わらないスタイルでハイクオリティな肉料理を提供している。ソースもまさに名店の味。食べる直前にぎゅっとレモンを搾ってくれるのもうれしい。

料金はランチ2,835円(サラダ、スープ、デザート、コーヒー付き)と少し高めだ。それもそのはず、この店のレモンステーキは、厳選された高級な黒毛和牛を使用している。佐世保を訪れて、オーセンティックな洋食を楽しみたいのなら、ぜひオススメしたい店である。

●information
れすとらん 門
佐世保市本島町3-9-1

「味ロマン 夢塾」のレモンステーキは1,450円

もうひとつは「味ロマン 夢塾」。フランス料理という枠組みを飛び越え、自由な発想で和洋折衷の様々な料理を楽しめる地元でも人気の洋食屋である。佐世保名物の海軍さんシチューやレモンステーキといった定番の洋食メニューだけでなく、新鮮な魚介を使った海鮮料理もここで楽しめる。

この店のレモンステーキは1,450円。柔らかくてジューシーな牛カルビ肉に、ガーリックの香りが食欲をそそる特製レモンソースがかかっている。肉は両面焼きで提供してくれるのもうれしい。

●information
味ロマン 夢塾
長崎県佐世保市早岐1丁目5-12

レモンステーキ。それは、是非一度食べてみてほしい魅惑のご当地グルメなのである。