京都大学(京大)は9月3日、大腸菌プロテアーゼBepAが外膜タンパク質の生合成と分解を促進することを発見したと発表した。
同成果は同大ウイルス研究所の秋山芳展 教授、成田新一郎 同特定助教(現 盛岡大学栄養科学部 准教授)、舛井千草 同大学院生、理化学研究所グローバル研究クラスタの秋山芳展 先任技師(副主任研究員待遇)、鈴木健裕 同専任技師らによるもの。詳細は米国科学雑誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に掲載された。
大腸菌などのグラム陰性細菌は細胞質膜(内膜)の外側にもう1つの膜構造(外膜)を持つことが知られている。この外膜の構成因子はすべて細胞質または内膜上で合成され、専用の輸送装置の働きで外膜まで輸送される。その外膜から細胞膜質までを細胞表層と呼び、そこに異常をきたしたタンパク質などが蓄積すると、それらを除去するための酵素群などの発現が上昇する(細胞表層ストレス応答)機構があり、中でもσE経路はもっとも重要なものの1つと考えられ、これまでに114の遺伝子がσEによる制御を受ける遺伝子(σEレギュロン)のメンバーとして同定されていますが、機能が明らかでない遺伝子も多くあった。
しかし、細胞表層の品質管理機構の理解のためには、これらの遺伝子の働きを解明することが求められていることから、今回、研究グループでは、σEレギュロンのメンバーであるyfgC遺伝子の機能解析を実施し、YfgCが外膜タンパク質のアセンブリと分解を促進することを発見。その結果から、YfgCを「BepA(β-barrel assembly-enhancing protease)」と改称することを提唱したという。
また、BepAは亜鉛メタロプロテアーゼの典型的な活性部位モチーフHEXXHを持っているが、実際にプロテアーゼ活性を持つかどうかは不明であったことから、精製したBepAを用いてプロテアーゼ活性を調査したところ、BepAによるα-カゼインの切断が観察され、金属キレーターの添加やプロテアーゼ活性部位モチーフへの変異導入によって切断活性が阻害されることを確認したほか、BepAの活性部位モチーフ変異体はbepA欠失株の薬剤感受性を相補できず、野生株で発現させると薬剤感受性を亢進させることを確認。これらの結果から、BepAのプロテアーゼ活性は細胞表層の機能維持に重要であることが示唆されたほか、これらの変異体は特定の条件ではbepA欠失株の薬剤感受性を相補することから、BepAはプロテアーゼ活性に依存しない機能も持つとの結論を得たとする。
そこで、BepA欠失株の薬剤感受性を指標にマルチコピーサプレッサーを選択したところ、LptEの過剰発現によってBepA欠失株の薬剤感受性が抑制されることが判明した。
LptEはリポ多糖の輸送に関わる外膜タンパク質LptDの生合成に関与することが知られているタンパク質で、LptDは合成されると、Cys31-Cys173、Cys724-Cys725の2組のジスルフィド結合を持つ前駆体(LptDC)の状態で外膜にターゲットされ、LptEとの相互作用が引き金となってCys31-Cys724、Cys173-Cys725のジスルフィド結合を持つ成熟体(LptDNC)へと変換される。研究では、BepA欠失株ではLptDCからLptDNCへの変換の遅延が見られたことから、BepAはLptDのジスルフィド結合の組換えを伴うフォールディングを促進すると考えられる結果を得たという。
また、BepAのプロテアーゼ活性はこの反応に必須ではないが、十分な機能を発揮するために必要であることも確認されたほか、LptEを枯渇させるとLptDCが蓄積するが、それがBepAによって分解されることも確認されたという。
さらに、光架橋能を持つ非天然型アミノ酸や化学架橋剤を用いた架橋実験、およびプルダウンアッセイの結果、BepAは外膜タンパク質の生合成に関与するBAM複合体と相互作用することも判明したほか、BepAはペリプラズムシャペロンSurA欠損下では、BAM複合体の中心的構成因子BamAの分解に関わることも見出されたとのことで、これらの結果から、BepAはBAM複合体の近傍で外膜タンパク質のアセンブリを促進する一方、フォールディングが阻害された際はそれらを取り除く働きをするシャペロン/プロテアーゼであると考えられるという結論に至ったとする。
なお研究グループでは、今回の成果から、大腸菌や緑膿菌などのグラム陰性細菌の外膜はさまざまな薬剤に対して透過障壁として働いているが、BepAを欠くことでリポ多糖の輸送が阻害されて外膜の機能が低下し、大腸菌がさまざまな抗菌薬に対して感受性を示すことが示唆されたことから、今後、BepAの活性を阻害する化合物のスクリーニングなどを通して、新たな抗菌薬の開発につながることが期待されるとコメントしている。