離婚率の高いアメリカ、多くの男性が結婚に慎重

アメリカは非常に離婚率の高い国である。総務省統計局の2010年度資料によると、世界各国の離婚率ランキングにおいて、アメリカは旧ソ連諸国であるロシア、ウクライナ、ベラルーシに次いで第4位。すなわち、旧ソ連とアメリカという、かつての冷戦時代における二大対立国が世界でも圧倒的に高い離婚率を誇っているということだ。

ちなみに同資料によると、日本の離婚率は世界第26位であった。かつてよりずいぶん離婚率が上昇したように感じるが、世界的に見ればまだそうでもない。

話を冒頭に戻すと、アメリカはその離婚率の高さがゆえ、離婚調停の類も当然多い。ましてや、それが高給取りの有名人に関する離婚調停になってくると、日本では考えられないくらい壮絶なバトルが繰り広げられるという。

たとえば、かつて1990年代にアメリカ・メジャーリーグのシカゴ・カブスなどで活躍したライン・サンドバーグという野球選手の話はすごい。サンドバーグは当時のメジャー史上最高額となる破格の高年俸を勝ち取るなど、押しも押されもせぬスーパースターの一人だったが、現役を引退した途端、愛する奥様に離婚訴訟を起こされ、財産の半分を支払った。かくして、サンドバーグは再び現役に復帰し、支払った分を稼がなくてはならなくなったのだ。

こういうことが決して珍しくないというから、さすがに驚きだ。極端な例になると、夫がまったく悪事を働いていないにもかかわらず、それまで仲睦まじかった奥様がなにかの拍子で一方的に離婚訴訟を起こし、財産を持っていくこともあるという。だから、アメリカの高給取り男性の中には結婚に際して慎重になる者も多く、既婚者の場合は極端に妻のご機嫌をうかがう弱腰な夫が多いらしい。

結婚に際して、アメリカ人男性の両親から疑惑の視線

昨年、アメリカ人の男性と国際結婚を果たした日本人女性のTも、彼の慎重な性格に困惑したという。彼は日本の一流外資系企業に務める36歳の敏腕ビジネスマンで、かなりの高給取りだとか。しかも、母国の実家も広大な土地を所有しており、資産総額は日本円にして数十億円。言わば、Tは見事な玉の輿に乗ったということだ。

しかし、結婚に至るまでは非常に長かった。彼とTが結婚の意思を固めて以降、実際に入籍するまでは実に4年間もの月日を要したという。その理由は、アメリカに在住している彼の両親にある。もしかしたらTがいつか離婚訴訟を起こして、財産を半分持っていくのではないかと、疑っていたからだ。

この疑惑はTにとって非常に大きなショックだった。それ以外の面に関しては、彼はもちろん、彼の両親にもなんの不満もなく、心の底から愛しているのだが、日本的な心を持っているTにしてみれば、彼の両親から向けられた疑惑は屈辱以外の何ものでもない。

しかも、そういう不満を彼に訴えても、彼は「アメリカでは離婚訴訟が多いから仕方ない」と言って、両親の肩を持ってしまう。Tにしてみれば、寂しさが募る一方だ。

とはいえ、Tはそれが原因で彼と別れることにも抵抗があった。せっかく心の底から愛せる人間に出会えたのだ。彼が資産家であること以上に、その奇跡を大切にしたい。なんとかして、彼の両親の疑惑を晴らし、晴れて華燭の典を迎えられないものか。

結婚するに際し、弁護士を通じて正式な契約書

そこでTは彼と結婚するに際し、弁護士を通じて正式な契約書を交わしたという。その契約の内容は「もしも離婚したとき、慰謝料はいくらいくらである」と事前に取り決めるというものである。しかも、その取り決め額も彼の両親と何度も相談して、最低限度の額で折り合いをつけたという。日本では絶対に考えられない。

こうして、Tはようやく彼と正式に結婚できることになった。件の契約書を交わしたことで、彼の両親は安心したのか、実に盛大な結婚パーティーを開いてくれたのだが、Tはそこまで素直に喜べなかったという。彼と結婚したい一心で、できる限りの譲歩をしたものの、やはり心にしこりが残って当然だ。彼の両親や親戚がいくら満面の笑みを浮かべていたとしても、その笑顔の裏にある一抹の怖さが気になってしまうのだ。

しかし、彼が言うには、両親に裏の顔はないのだとか。その両親の周りには離婚によるトラブルで苦しんだ家があまりに多かったため、慰謝料金額の事前契約が慣例のようになっていただけだという。日本で言うところの、結婚前の釣書交換みたいなものか。

「あくまで形式的な書面のやりとりだから気にするな」

彼はそう言って、いぶかるTをなだめるだけだった。

現在、Tは日本国内で彼と一緒に生活しているのだが、来年には彼の母国であるアメリカに引っ越し、彼の両親とともに暮らす予定だという。アメリカに永住すること自体はTにとっても望むところであり、楽しみな部分もある。

ただし、彼の両親と契約書を交わしたことで生まれた一種の猜疑心に関しては、まだまだ拭い去ることができずにいる。ましてや、そんな両親とも一緒に暮らさなければならないと考えると、胃が痛くなる。いやはや、国際結婚は難しい。

<作者プロフィール>
山田隆道(やまだ たかみち)
小説家・エッセイスト。早稲田大学卒業。これまでの主な作品は「虎がにじんだ夕暮れ」「神童チェリー」「雑草女に敵なし!」「Simple Heart」など。中でも「雑草女に敵なし!」は漫画家・朝基まさしによってコミカライズもされた。また、作家活動以外では大のプロ野球ファン(特に阪神)としても知られており、「粘着! プロ野球むしかえしニュース」「阪神タイガース暗黒のダメ虎史」「野球バカは実はクレバー」などの野球関連本も執筆するほか、各種スポーツ番組のコメンテーターも務めている。

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