冷蔵庫にお気に入りのアイスクリームを常備している家庭も少なくない

石川県金沢市は、アイスクリームの1世帯あたりの年間支出額が全国1位(総務省の家計調査)。冬は雪が積もり寒さ厳しい北陸の地で、なぜこんなにもアイスを購入しているのだろう。そして、一体どんなアイスを食べているのか。金沢人のアイス好きの実態と人気のアイスについて調べてみた。

夏は毎日、冬もコタツに入りながら

総務省の家計調査によるアイスの1世帯あたり年間支出金額(平成24年)では、金沢市が1万80円で1位。1万円を超えたのは金沢市だけで断トツの多さだ。アイス1本100円と考えると年間100本、3人家族だと1人年間30本、月2.5本は食べる計算になる。アイス好きならそのぐらい食べるだろうが、年間平均でこの数字はやはり多い。

本当にそんなに頻繁にアイスを食べているのか、金沢人にリサーチしてみた。「冷蔵庫に常備して食べている」「夏は毎日のように食べる」「新商品を見かけるとついつい買っちゃう」とアイス率は一様に高い。中には「温かいコタツに入って冷たいアイスを食べるのが好き」と冬のアイスを楽しむ人も。季節に関係なくアイスを食べている人が多いようだ。

スーパーのアイスコーナーを見てみると、大手メーカーを中心におなじみのアイスクリームがズラリ。と言っても、他県と比べて特に種類が多いわけではない。ただ、市民からは「金沢のスーパーは、アイスの特売日が多い」という声が聞かれた。確かに「本日アイス半額」などの紙が貼られているのをよく目にする。

実際、特売日に足を運んでみると、アイスコーナーのまわりには、帰り道に食べるアイスを品定めする学生さん、ファミリーパックを手に取るママ、そのママにおねだりする子供などたくさんの人であふれていた。お得な特売日に買って冷蔵庫に常備、いつでも楽しめるようにしておくのが、金沢人の常識になっているようだ。

果物や野菜のみならず、海産物のアイスも

では、どんなアイスを食べているのだろうか。市内のスーパーで大手メーカーの商品にまじってよく目にするのが、「五郎島金時(ごろうじまきんとき) 焼きいもアイス」(150円)だ。

「五郎島金時」は、日本海に面して砂丘が広がる金沢市五郎島地区で栽培され、甘くてホクホクの味が楽しめるさつまいも。そのおいしさをクリームとあんにしてアイスにしたのがこの一品。「金沢自慢の味が手軽に楽しめる」「初めて食べた時、五郎島金時の味がそのまま再現されていてビックリした」と、金沢定番のご当地アイスになっている。

「五郎島金時 焼きいもアイス」

焼きいも型のもなかに五郎島金時のクリームとあんが入っている

アイス好きの中には、お気に入りのアイスクリーム屋さんがあるという人も多い。その中で特に女性に人気なのが、県北部の能登町(のとちょう)と金沢市の隣・野々市市(ののいちし)に店を構えるジェラート専門店「マルガージェラート」。能登半島の豊かな自然の中で育った乳牛からとれる、搾りたての生乳を使ったフレッシュな味が人気だ。

フレーバーは、「ゆず」「すもも」「栗」「いちじく」「白桃」「スイカ」など地元産の果物から、能登半島で作られる「天然塩」や「いしり醤油(魚を原料にした調味料)」「かき貝」「岩のり」など珍しいものまで。「季節や好みに合わせて、いろいろなフレーバーが楽しめる」と女性の心をつかんでいる(シングルサイズは、本店=300円、金沢野々市店=330円)。

(左から)ほんのり塩がきいたミルキーな「珠洲の天然塩」、キャラメルの苦みがおいしい「能登の塩キャラメル」、お茶どころ・金沢らしく香り高い「金沢抹茶」

お出かけ先で食べるソフトクリームも大好き! 

ご当地ソフトクリームも種類豊富だ。県内にはスタンダードなものに加えて、温泉街の「温泉たまごソフト」、地元野菜を使った「金時草(きんじそう)ソフト」、塩を振りかけて食べる「男爵いもソフト」など変わり種も。お出かけ先では、ご当地ソフトクリームを必ず食べるという人も多い。

中でも人気なのが、金沢市大野町 (おおのまち)にある「ヤマト醤油味噌」の「醤油ソフトクリーム」(300円)。大野は江戸時代からしょう油の生産地として知られ、特産の醤油を使ったソフトクリームが名物になっている。「キャラメルのような独特の味がクセになる」とアイス好きには定番だ。

大野名物「醤油ソフトクリーム」

しょう油蔵の煙突がそびえ、ノスタルジックな雰囲気

2009年には、画期的なソフトクリームも登場した。金沢市にある「Healthy Lab(へるしぃらぼ)」の「溶けないソフトクリーム」(コーン280円)は、おからペーストと米粉を混ぜることで、できたての形を長期間キープするというもの。

「溶けないソフトクリーム」。本当に溶けない不思議なソフト

通常、ソフトクリームを食べ終わる頃には、クリームが溶けてコーンの先がふやけてしまうが、溶けないソフトクリームはコーンがパリパリのまま。夏場でも長時間持ち、完食するのに時間がかかる子供たちでも食べやすいと好評だ。甘さ控えめでモチモチしていて、時間がたつとババロアのような食感も楽しめる。

しかし、なぜ金沢人はここまでアイスが好きなのか。ひとつには、加賀藩時代から根づいている和菓子をはじめとしたスイーツ好きな土地柄がある。人が集まる所には、必ずといっていいほど和菓子やケーキなど甘いものが登場。女性同士の会話では、好きなお菓子やお気に入りのケーキ屋さんなどの話題が多い。とにかく甘いものに目がないのだ。

また、いろいろな意味で豊かだということも挙げられる。金沢は多くの自然に囲まれ、山海の幸など食に恵まれ、加賀百万石の伝統文化が根づいている。嗜好品であるお菓子にこれだけお金や時間をかけられるのは、生活や気持ちに余裕があるからこそ。独特の風土や文化がアイス好きな土地柄を作りだしているということも言えそうだ。

甘いものが大好き。もちろんアイスも大好き。それに応えるように、おいしいアイスがたくさん! 金沢人にとって、アイスクリームは毎日の生活に欠かせないもののひとつになっているようだ。