千葉大学や金沢大学などで構成される国際研究グループは、シリコンを用いて電子が持つ、電流の担い手である電荷、磁石の起源であるスピン、固体中での電子の動きを制御するバレー(谷)という、3つの性質を組み合わせることに成功したと発表した。

同成果は、千葉大学大学院 融合科学研究科の坂本一之 准教授を中心に、金沢大学 理工研究域の小田竜樹 教授などの日本、韓国、スウェーデン、ドイツ、イタリアの研究者で構成される国際研究グループによるもの。詳細は英科学誌「Nature Communications」に掲載された。

半導体デバイスにおける情報伝達は電子の3つの性質のうち電荷が担ってきたが、その制御には多くのエネルギーが必要であり、固体中の欠陥などによる散乱で電子の流れが阻害されることで効率が低下するといった問題がある。

一方、電子のスピンの性質を用いる半導体スピントロニクスデバイスは、より少エネルギーでの情報制御が可能となるが、散乱による効率の低下問題があり、電子やスピンの流れる方向を限定できるバレーの性質を組み合わせる方法などが解決策として提案されているが、それらは実用には向かないものが大半であった。そこで今回、研究グループは、結晶の対称性を利用することによって簡便な方法で3つの性質を組み合わせることを解明。実際に組み合わせることで、散乱が抑制されていることを観測することにも成功しており、これにより、シリコンを用いた既存の半導体技術をベースとした半導体スピントロニクスデバイスの実現に向けた道が開かれたとしている。

今回の研究で使用されたシリコン表面上にタリウムを1層吸着させた試料

上向き(赤)と下向き(青)のスピンに偏極したバレー構造。上向きスピンは+xの方向にのみ流れ、下向きスピンは-x方向のみ流れる。不純物や欠陥があっても右向きに流れていた上向きスピンは、上向きスピンが存在できるバレーがないがないために左方向に散乱されない