政府は7日、製造業の現状などをまとめた2013年版「ものづくり白書」(ものづくり基盤技術の振興施策)を閣議決定した。同白書は、経済産業省、厚生労働省、文部科学省の3省共同で作成したもの。

日本経済の基幹産業として国内雇用や貿易立国を支えてきた製造業は現在、長期にわたった円高や内外の環境変化などにより、エレクトロニクス(電気機器)を中心に輸出力が低下している。白書は、円高是正やデフレ脱却に対する期待感を背景に、足下では業況は改善しているものの、「現場力の強みに根差した製造業は、中長期的に競争力の低下が懸念されている」と分析している。

高いレベルの貿易黒字を維持している自動車についても、地産地消の進行や輸入部品の活用が増えることで、黒字が縮小する恐れがあるとの懸念を示している。

海外生産の現状については、自動車産業を中心に海外生産が拡大する一方、国内生産は頭打ちとなっているとし、特にエレクトロニクスは国内のみならず、海外での設備投資も低迷しており、今後も伸び悩むと予想している。さらに、企業の海外展開は多様化しており、従来の量産拠点だけでなく、今後は研究開発やデザインなど、競争力の源となる機能の海外展開が加速化する可能性があると推測している。

白書はまた、日本の製造業は、サプライサイド、マーケットサイドの両面で転換点を迎えていると指摘。サプライサイドの面では、世界のものづくりの潮流の変化として「3次元(3D)プリンタ」を取り上げ、「低価格化により本格的に普及が進んだ場合、熟練工が持つような高度な加工技術が不要となり、ものづくりの方法が大きく変わる可能性がある」との見方を示した。

世界のものづくり産業が注目する"3次元プリンタ" (出典:経済産業省Webサイト)

一方、マーケットサイドに関しては、少子高齢化や人口減少などで国内市場の不振が続いているのに対し、新興国市場が急成長しており、市場を取り巻く環境変化への対応が不可欠だとしている。

今後の課題と方向性については、企業の競争力を最大限引き出す「立地環境の整備」が必要だと主張。為替やエネルギー制約、経済連携の遅れなどにより、国内でのものづくりは諸外国より割高で、規制などが足枷となっているという。

また、主要国と比べて「産業集積」に優位性があるものの、「産業基盤」「労働力」で劣り、立地環境に弱点があると分析。その上で、これらの高コスト構造の是正や規制の見直し、TPPやRCEP(東アジア地域包括的経済連携)、日中間FTAといった経済連携の実現が急務だとし、立地環境の大幅改善を通じて、企業が活躍しやすい国を目指すべきだと主張している。

企業の競争力の基となる技術については、日本の企業部門の研究開発費は、ほぼ全ての業種で減少している一方、中国や韓国は大幅に伸びていると指摘。さらに、日本の企業の研究開発は短期的な成果を求める傾向が強く、「質」の停滞が見られると分析している。

設備投資についても、日本はこの20年間で約3割減少したのに対し、韓国では4.95倍、米国では2.37倍に増加しているほか、日本は設備の老朽化も進んでいると批判。解決策として、研究開発投資や設備投資(マザー機能の維持・強化)を促す環境整備、優れた技術がビジネスにつながる規制の合理化・整備が重要だとの考えを示した。

また、かつての「高性能・高品質製品であれば売れる」というビジネスモデルは限界だとし、コモディティ化が進んだ分野では、「外部資源を積極的に活用(生産委託)するようなビジネスモデルへの転換を行うか、世界と競争できる事業規模を確保するため、再編などを通じた"グローバルメジャー"企業を目指すべき」と主張。さらに、規模での競争に陥らない、「自らの技術を活かし勝てる事業領域」を選択することで、高い競争力を持つ"グローバルニッチトップ"企業を創出・育成すべきとした。

白書では、産業の環境整備についても言及。日本の開廃業率は欧米と比べて低水準で、利益率も低いほか、多くの企業で非効率事業を抱え込んだまま、人材や設備などの経営資源が有効活用されておらず、産業の新陳代謝が遅れていると分析した。その上で、不採算部分の経営資源を活用した事業転換や新分野(環境エネルギー分野、農商工連携分野など)での創業、中小企業による連携を促進する環境整備が必要だと提言した。

また、将来の人口減少社会に対応するためには、「全員参加型社会」の構築に取り組むべきだとし、女性技能者の就労環境の整備、高年齢技能者の活用および若者への技能伝承、非正規雇用技能者の正規雇用促進などが重要だとした。

このほか、ものづくり人材を育てる教育・文化基盤の充実、産業力強化のための研究開発ならびに産学官連携を活用した研究開発の推進なども提案している。