岡山大学は5月17日、農業・食品産業技術総合研究機構(NARO) 果樹研究所との共同研究により、第2の「クオドリウイルス」系統を詳細に解析したと発表した。
成果は、資源植物科学研究所の鈴木信弘教授、NARO 果樹研究所の兼松聡子博士らの共同研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、「Archives of Virology」5月号に掲載された。
「植物病原糸状菌」はウイルスハンティングのフロンティアとなっている。研究チームは、過去5年間に植物病原糸状(「子のう菌」)である「白紋羽病菌 Rosellinianecatrix」から分離された多数のウイルス(菌類ウイルス)の性状解析を行ってきた。白紋羽病菌は、400種以上という非常に広い宿主範囲を持つ土壌に生息する糸状菌だ。日本では特に多年生の日本ナシ、リンゴ、ブドウといった果樹で被害が出ている。
クオドリウイルスの第1例「Rosellinia necatrix quadrivirus1-W1075」は研究チームが2012年に報告したが、今回はその第2例となる。第2例「Rosellinia necatrix quadrivirus1-W1118」も、第1例と同様に白紋羽病菌 Rosellinia necatrixから分離された。
クオドリウイルスの共通な特徴として、ゲノムが4分節dsRNA(double-strand(stranded) RNA:2本鎖RNA)セグメントからなり、直径45nmの球状粒子を生産すること、末端塩基が多様性を示す。末端塩基の多型はウイルスゲノムとしては極めて珍しい例だという。
これら兄弟ウイルス間で異なる点は、ウイルス粒子がW1118系統でより安定な点だ。2つのウイルスを別種とするか同1種の別系統とし、それぞれのウイルス科により基準が異なるが、W1118とW1075のウイルスの対応するタンパク質間には72~82%配列相同性が認められる。通常、この値はほかのウイルスの科では別種とする閾値より低い値だ。しかし、両者が同じ生物学的性状(同一宿主に無病徴感染する)を示すことから、同1種の別系統とすることを提案したのである。
研究チームのこれまでも含めた一連の研究の大目的は、白紋羽病菌を病気にする(果樹に対する病原力を衰退させる)ウイルスを使用して果樹を白紋羽病から防除(「ヴァイロコントロール」と提唱されている)することだ。すでに強力なヴァイロコントロール因子となるようなウイルスの発見に成功しており、同時に菌類には実に多様なウイルスのナノ世界が存在することも示している。
つまり、菌類に感染するウイルスの科は現在14種類の新種が存在し、その内の2種は「Megabirnaviridae」と「Quadriviridae」という新しい科に属することを提案し、国際ウイルス分類委員会に承認された形だ。今後も、次々と新しい種、属、あるいは科に属する菌類ウイルスが発見され、その中にヴァイロコントロール因子として有望なウイルスが含まれることが大いに期待されるとしている。