北海道大学(北大)は5月17日、精子の形成過程において減数分裂における「タンパク質分解酵素(プロテアーゼ)」の機能の一端を解明したと発表した。

成果は、北大 理学部生物科学科(生物学) 博士課程の米田竜馬氏(日本学術振興会特別研究員)、米田氏が所属する木村研究室を率いる木村敦准教授らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、生殖生物学専門誌「Biology of Reproduction」5月号に掲載された。

精子は、その基になる細胞が「減数分裂」と「精子変態」という2つの過程を経て精子になる。その過程は古くから知られているが、それに関わる分子についてはまだあまりわかっていない。そこで研究チームは今回、精子が作られる「精巣」だけに発現している3つのプロテアーゼの「Tessp-2」、「Tessp-3」、「Tessp-4」に注目し、それらの精子形成における役割の検証を実施した。

まず、これら3つの遺伝子の詳細な発現パターンから調査。すると、それらのメッセンジャーRNAはいずれも「精母細胞」と呼ばれる細胞にのみ発現していたが、3つのタンパク質は互いに異なる局在を示すことが判明した。このことから、生物進化の過程で祖先遺伝子が重複してできた兄弟のような3つの遺伝子(「パラログ」という)が、それぞれ異なる機能を持つことが示唆されたというわけだ。

次に、3つのプロテアーゼの内、そのタンパク質が細胞膜に局在していたTessp-2とTessp-3の機能を調べるため、精巣の器官培養を実施。この培養系では減数分裂が進行するが、培養液に「抗Tessp-2抗体」や「抗Tessp-3抗体」を添加したところ、減数分裂が途中で停止してしまった。しかも、「アポトーシス(プログラム細胞死)」を起こす生殖細胞の割合も劇的に増加したのである。このことから、Tessp-2とTessp-3は減数分裂が進行する際に、生殖細胞の生存に必須であると考えられるとした。

さらに研究チームによれば、Tesspが生殖細胞の周りを取り囲む「細胞外マトリクス」である可能性や、「セルトリ細胞」と呼ばれる哺育細胞と生殖細胞との結合を分解する機能を持つ可能性があるとしている。

研究チームは今回の成果に対し、これまでほとんど調べられてこなかった減数分裂におけるプロテアーゼの機能の一端を明らかにしたもので、精子形成メカニズムの全容解明に役立つことが期待されるとしている。

マウスの精巣切片(ヘマトキシリン・エオシン染色)