岡山大学は5月8日、ヒト軟骨細胞様細胞株「HCS-2/8」より「肥大軟骨細胞」に特異的に発現する遺伝子「hcs-24」をクローニングし、その遺伝子産物である「CCN2(CTGF)」を軟骨特異的に過剰発現するトランスジェニックマウスを作成したところ、同マウスで「長管骨」(ヒトでいう上腕骨や大腿骨など細長い円筒状の骨)の伸長が実際に見られたことから、CCN2が内軟骨性骨化促進因子であることを確認したと発表した。

成果は、岡山大大学院 医歯薬学総合研究科の滝川正春教授、同・服部高子助教らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、3月28日付けで米オンライン科学誌「PLoS ONE」に掲載済みだ。

ヒトの身体を構成している骨の多くは、一旦軟骨を経てから硬い骨が形成されるという、「内軟骨性骨化」により形成される仕組みだ。この内軟骨性骨化の制御に乱れが生じると、小人症や巨人症などの骨形成不全症が起きてしまう。また、骨折の治癒も内軟骨性骨化により行われる仕組みだ。

滝川教授らは1997年に、自ら樹立したヒト軟骨細胞様細胞株「HCS-2/8」より「肥大軟骨細胞」に特異的に発現する遺伝子「hcs-24」をクローニングし、その遺伝子産物「HCS-24」(CTGFと同一の分子で、現在はCCN2で名前が統一されている)が、内軟骨性骨化に重要な役割を演ずる軟骨細胞、骨形成を行う「骨芽細胞」、血管の内表面を構成する「血管内皮細胞」の「in vitro」(イン・ビトロ:実験条件が人為的に制御下に置かれた環境であるという意味)での増殖・分化を共に促進し、また、in vitroでの骨を破壊・吸収する「破骨細胞」の形成も促進することから、CCN2が内軟骨性骨化促進因子であるという仮説を立てていた。

そこで、今回CCN2を軟骨特異的に過剰発現するトランスジェニックマウスを作成したところ、同マウスにおいて実際に長管骨が伸長することが確認され、この仮説が実証された次第だ。またCCN2のこの作用の一部は、以前から軟骨細胞の増殖・分化を促進することが知られていた「インスリン様成長因子」を介していることも解明された。

CCN2はCCN1~6の6つの分子種からなるCCNタンパク質・遺伝子ファミリーの一員である。このファミリータンパク質は、CCN5がC末モジュールを欠落する以外4つの特徴的なモジュール構造を持った、アミノ酸の1種の「システイン」に富む分泌タンパク質で、各モジュールが種々の細胞外マトリックス、増殖・分化因子、その受容体などに結合し、多彩な作用を発揮する。このような機構を介して、CCN2は骨・軟骨の調和ある再生作用を示すというわけだ。

その一方で、通常発現していない軟組織で異常な発現をした場合、その強力なマトリックス合成促進作用から、種々の線維症を引き起こしてしまうことが示唆されており、その治療薬開発の標的としても注目されている。

また、CCN2には調和ある組織再生作用があることが、滝川教授らの研究チームによるほかのいくつかの研究で明らかにされており、冒頭で述べたトランスジェニックマウスにも骨伸長は見られるものの、異常な軟骨・骨の増生は認められない。従って、CCN2は、骨折治癒促進剤の開発の対象となると共に、小人症などの内軟骨性骨化異常による疾患の治療の新たな標的となる可能性が期待されるとしている。