東北大学と京都大学、広島大学、理化学研究所、高輝度光科学研究センターは4月30日、X線自由電子レーザ(XFEL)の百兆分の1秒という極短パルス幅(発光時間)のX線をキセノン原子に照射すると、キセノン原子がX線を吸収した後、電子を放出して安定化する過程を繰り返し行い、イオン化が進行することを見出したと発表した。

同成果は、東北大学 多元物質科学研究所 上田潔教授のグループ、京都大学 大学院理学研究科 八尾誠教授のグループ、広島大学 大学院理学研究科 和田真一助教、理化学研究所 放射光科学総合研究センター XFEL 研究開発部門ビームライン研究開発グループ 矢橋牧名グループディレクター、高輝度光科学研究センター(JASRI) XFEL 研究推進室利用技術開発・整備チーム 登野健介チームリーダーのグループからなる合同研究チームによるもの。詳細は米国の科学雑誌「Physical Review Letters」への掲載に先立ち、オンライン版にて掲載された。

米国のX線自由電子レーザ(XFEL)施設「LCLS」に続いて、日本でもXFEL施設「SACLA」が完成したことから、強力かつ極短時間幅のパルスX線の利用が可能となった。XFELを利用すると、例えば、化学変化において超高速で起こる個々の原子の動きのように、これまで見えなかった超微細、超高速な現象を見ることが可能になると期待されている。この実現には、強力なX線パルスが原子によって散乱される様子を正しく記述することが必要となるが、そのような強力なX線はこれまで存在しなかったため、強力X線パルスの散乱を記述するための原子データを得ることが求められるようになっている。そうした要求を受けて、今回、研究グループでは、X線散乱で重要な役割を果たす重原子の代表であるキセノン原子が、SACLAの強力X線パルス照射に対してどのように応答するかの調査を行った。

実際の研究では、まずキセノン原子線を真空中に導入して、SACLAで得られる1μm径程度のサイズに集光したX線パルスを照射し、生成したキセノン原子イオンを飛行時間型イオン質量分析装置を用いて観測した。

図1 XFELを用いたキセノン原子のイオン化実験の概念図

キセノン原子はX線が照射されると、深い内殻軌道の電子が放出され、エネルギーが高く不安定な原子イオンになる。この不安定な原子イオンはオージェ過程により、比較的浅い軌道の電子を繰り返し放出してエネルギー的に安定な多価原子イオンになる。SACLAのX線パルスを照射すると、キセノン原子はこのような過程を複数回繰り返して、多量の電子を放出した多価原子イオンになり、研究においては最も高い価数は26+であったという。これは、百兆分の1秒程度の時間に26個の電子が放出されたことを意味する。

図2 飛行時間の計測によるイオンの分析を示す図

また、X線パルスのフルエンスによって生成するイオンの数が変化する様子も観測された。観測結果をよく再現する理論計算から、価数が24+以上の多価イオンは、百兆分の1秒のパルス幅の時間内に、キセノン原子がX線吸収と引き続いて連続的に起こるオージェ電子放出過程を5回ないし6回繰り返して生成することが見出された。

図3 X線吸収と多段階に起こる電子放出の繰り返しにより、キセノン原子の価数が上昇するX線の高次非線形効果を示す図

今回の研究は、SACLAのX線パルスを照射された重原子は、SACLAの百兆分の1秒のパルス幅の間に、X線を吸収してはオージェ電子を次から次に放出する過程を何度も繰り返して、急激にイオン化が進行することを明らかにするとともに、SACLAの強力なX線パルスを用いた構造解析では、重原子の動的な挙動を正確に記述することが不可欠であることを示す結果となった。そのため、研究グループでは、今回の研究で試みたように、強力X線パルスを照射された重原子の挙動を正しく記述することができれば、SACLAを用いて、これまで見えなかった超微細、超高速な現象を見ることも可能になることが期待されると説明している。